ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第10帖 賢木 / 第11場面

朧月夜との逢瀬

あらすじ・人物・読み方

五壇の御修法の隙をうかがい、源氏は尚侍の君のもとへ忍びます。夜明けの声に贈答を交わし、名残惜しく退出します。

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現代語で読む

帝は、院のご遺言に背かず、しみじみとお思いだったけれども、若くていらっしゃるうちにも、お心が軟らかい方に過ぎて、強いところがおありでないのであろう、母后や外祖父の大臣がそれぞれなさることには、背かせなさることができず、世の政務も、お心に適わないようである。

面倒なことばかりが増すけれども、尚侍の君は、人知れずお心が通っているので、無理にでもということになって、気がかりでないことはない。五壇の御修法の初めで、謹慎していらっしゃる隙をうかがって、例によって、夢のようにお便りなさる。あの、昔をお思い出す細殿の局に、中納言の君が、紛らわしてお入れ申し上げる。人目も多いころなので、普段よりも端近くにいて、空恐ろしく思われる。

朝夕に拝見する人でさえ、見飽きないご様子なので、まして、珍しい折にだけあるご対面が、どうしておろそかであろうか。女君のご様子も、なるほど見事な御盛りである。重々しい方は、どうであろうか、趣があって艶めかしく若々しい感じがして、見たいようなご様子である。

まもなく明けてゆくのか、と思われるところに、ちょうどここの場所で、「宿直を申し上げ、伺候しております」と、声を作っているのである。「また、この辺に隠れている近衛司がいるのだろう。けしからん方への密告をするのだ」と、大将はお聞きになる。おかしいけれども、面倒である。あちこち尋ね歩いて、「寅の刻一つです」と申すのである。女君は、心から、あれこれと袖を濡らすことですね。明け方を教える声につけても。とおっしゃるご様子は、はかない風情で、たいそう興趣がある。嘆きながら、私の世はこうして過ごせというのでしょうか。胸の明くべき時はいつともなくて。

落ち着く心もなくて、お出になってしまった。

夜深い暁の月夜が、言いようもなく霧に包まれているところに、たいそうひどく身をやつして、振る舞っていらっしゃるのが、似るものなきご様子で、承香殿の御兄の藤少将が、藤壺から出て、月の少し隈のある立蔀のもとに立っていたのを、知らずにお過ぎになったであろうことが、おいたわしい。非難を申し上げるようなこともあったろうか。

このようなことにつけても、そっけなく薄情な人のお心〔藤壺〕を、一方では見事だと思い申し上げなさるけれども、わが心の引かれる方では、なおつらく心憂い、とお感じになる折が多かった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第10冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。