ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第10帖 賢木 / 第13場面

塗籠の夜の明けるまで

あらすじ・人物・読み方

源氏は夜通し怨み言を述べますが、藤壺は応じません。明け方、歌を交わして源氏は人目を忍んで退出します。

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男も、永年世の中を自制していらっしゃったお心が、みな乱れて、正気の様子でもなく、万事を泣く泣く怨み申し上げなさるけれど、本当に薄情だとお思いになって、お返事も申し上げなさらない。ただ、「気分が、たいそう苦しいのです。そうでない折もあったら、申し上げましょう」とおっしゃるけれど、尽きないお心のほどを言い続けなさる。

そうはいっても、情けないとお聞きになる節も交じっているだろう。なかったことではないけれど、改めて、たいそう残念にお思いなので、親しいものながら、うまくおっしゃり逃れて、今夜も明けて行く。せめて従い申し上げないのも恐れ多く、心恥ずかしいご様子なので、「ただ、これほどにでも、時々、ひどい愁いだけでも、晴らさせていただけるなら、どんな不埒な心もございません」などと、和らげ申し上げなさるようだ。並々のことでさえ、このような間柄では、しみじみとしたことも添うというのに、まして、類のない仲である。

明け果てると、二人して、ひどいことどもを申し上げ、宮は、半ば亡くなったようなご様子の心苦しさに、「世の中に生きているとお聞き及びになるのも、たいそう恥ずかしいので、そのまま死んでしまおうかとも思いますが、また、この世ではない罪となるはずのことです」などと申し上げなさるのも、薄気味悪いほどお思い入れになっていらっしゃる。逢うことの難しいのを今日に限らないとしたら、今から幾世を、嘆きながら過ごすことでしょうか。あなたの御束縛にもなりましょうに」と申し上げなさると、そうはいっても、溜息をおつきになって、長い世の恨みを人に残しても、その一方では心を、不実なものと知ることでしょう。

はかなく言いなさっていらっしゃるご様子が、言いようもない心地がするけれど、人のお思いになる所も、ご自身のためにも苦しいので、我ながらどうにもならず、お出になってしまった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第10冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。