ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第12帖 須磨 / 第11場面

都との文通

あらすじ・人物・読み方

長雨のころ源氏は都へ文を送り、入道の宮・尚侍・紫の上から心のこもった返歌を受け取る。

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現代語で読む

ようやく〔須磨の暮らしが〕落ち着いてゆくにつれ、長雨のころになって、都のことも思いやられるので、恋しい人が多く、女君〔紫の上〕が〔別れに〕思っていらした様子、東宮のこと、若君が無心に戯れていらしたことなどをはじめ、あちこちへ思いを寄せてお便り申し上げなさる。

都へ使いの人を出発させなさる。二条院〔紫の上〕へ差し上げる文と、入道の宮〔藤壺〕への文とは、書き終わりなさらず、気を失うほど思い沈んでいらっしゃった。宮〔藤壺〕には、松島の海人の苫屋はどうであろうか。須磨の浦人が塩に濡れて涙するこのころは。

いつ〔お会いできる〕とも知れぬ間柄の中でも、過ぎた日も行く先も心が暗くなり、『汀の水が増さるように涙があふれて』というほどです」

尚侍〔朧月夜〕のもとへは、例によって、中納言の君の私的な用件という形で、その文の中に〔源氏の文を入れて〕、

「所在なく過ごした日々を思い出されるにつけても、懲りずまに、浦の海松布が見たいと心引かれるのを、塩を焼く海人はどう思うでしょうか。

あれこれ書き尽くしなさる言葉は、思いやることができる。

大殿〔左大臣家〕にも、宰相の乳母にも、お仕えすべきことなどを書き送りなさる。

都では、このお文を、所々で御覧になりながら、心を乱しなさる人々ばかりが多かった。二条院の君〔紫の上〕は、そのまま起き上がりもなさらず、尽きないほど思い焦がれていらっしゃるので、お仕えする人々も慰めあぐねながら、心細く思い合っていた。

〔紫の上が〕使い慣れていらした御調度ども、弾き慣れていらしたお琴、脱ぎ捨てていらした御衣の匂いなどにつけても、もうこの世にいらっしゃらない人のようにばかりお思いになっていたので、一方では不吉で、少納言は、僧都にご祈祷のことなどを申し上げる。二か所で御修法などをさせなさる。また一方では、「嘆いていらっしゃるお心をお静めになって、物思いのない世におらせ申し上げてください」と、心苦しいままにお祈り申し上げなさる。

旅先での御宿直の品々などを、調えて差し上げなさる。かとりの御直衣や指貫など、様子の変わった心地がするのも悲しいのに、「去らぬ鏡」とおっしゃった面影が、実際に身に添っていらっしゃるのも甲斐がない。

〔源氏が〕出入りなさった方角、寄って座っていらした真木柱などを御覧になるにつけても、胸がふさがるばかりで、あれこれ思い巡らし、世に涙に染みた年齢の人でさえそうであるのに、まして、馴れ睦み申し上げ、父母にもなって育て立ててこられたのだから、恋しく思い申し上げていらっしゃるのは、もっともである。ひたすらこの世から亡くなってしまうのなら、言いようがなくて、次第に忘れ草も生えやすかろうが、便りを聞く距離は近いけれど、いつまでとも期限のあるお別れでもないので、お思いになるにつけて尽きることがない。

入道宮〔藤壺〕も、東宮のことで思い嘆いていらっしゃる様子は、言うまでもなくひどいものである。〔藤壺が源氏の〕ご宿世のほどをお思いになるにつけては、どうして浅くお思いになるだろうか。長年はただ世間の噂などの憚りから、「少し情けある様子を見せれば、それにつけて人の咎めの出ることもあろう」とばかり、一途に思い忍びながら、しみじみとした情も多く御覧じ過ごし、すっきりとお扱いになっていたのを、「これほど憂き世の人の言葉であるけれど、決してこの方には言い出すことなく終わったばかりの、あの方のお気持ちも、強引だった心の引く方に任せず、また穏やかに包み隠してきたのです」。しみじみと恋しく、どう思い出さずにいらっしゃるだろうか。お返事も、少し詳しく書かれていて、

「このごろは、ますます、塩が垂れることを焼く仕事として、松島で年を経た海人も嘆きを積むことです。

尚侍の君〔朧月夜〕のお返事には、浦で焚く海人でさえ包み隠す恋であるので、燻る煙よ、行くあてもないことです。

その他のことどもは、〔書ききれ〕ません」

とだけ、少し書いて、中納言の君の〔文の〕中にある。〔尚侍が〕思い嘆く様子などを、ひどく言ってあった。しみじみと思い申し上げなさる節々もあるので、〔源氏は〕ふと涙ぐんでしまわれた。

姫君〔紫の上〕のお文は、心が格別にこもったお返事であるので、しみじみすることが多くて、浦人が潮を汲む袖と比べてご覧ください。波路に隔てられた夜の衣を。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第12冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。