第12帖 須磨 / 第13場面
尚侍の赦免と帝の御嘆き
あらすじ・人物・読み方
尚侍は赦されて参内を再開する。主上は源氏の不在を嘆き、昔を思い出して涙する。
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現代語で読む
尚侍の君は、人笑いになるほどひどく思い沈んでいらっしゃるのを、大臣〔父〕がたいそう可愛がっていらっしゃる娘であるので、切に、宮〔弘徽殿〕にも内裏にも奏上なさったので、「身分の限られた女御や御息所でもいらっしゃらず、公向きの宮仕えである」と〔帝が〕思い直され、また、「あの憎かったゆえにこそ、厳重なことも起こったのか」。お赦しになって、参上なさるべきにつけても、なお心に染みた方〔源氏〕が、しみじみと思い出されなさるのであった。
七月になって参上なさる。ひどかったお思いの名残であるので、人の非難もお気になさらず、例によって、主上〔朱雀帝〕にぴったりお仕えさせになって、万事につけて怨み、また一方ではしみじみと愛情を契らせなさる。
ご様子や容貌もたいそう優雅で清らかであるけれど、思い出すことばかりが多い心のうちが、恐れ多い。お遊びのついでに、
「あの人がいないことこそ、たいそう物足りない。ましてあのように思う人は多いだろうに。何ごとも光のない心地がすることよ」とおっしゃって、「院がお思いおっしゃったお心に背いてしまったなあ。罪を得るだろうよ」
と言って、涙ぐみなさるにつれ、〔尚侍も〕堪えなさることができない。
「世の中は、あるにつけてもつまらないものだと、思い知るにつれて、長く世に生きる者とは、まったく思わない。そうなってしまったら、どうお思いになるだろうか。近いうちの別れに思い落とされることこそ、妬ましい。生きている世に〔また会える〕とは、本当に、よからぬ人が言い置いたのだろう」
と、たいそう懐かしいご様子で、物を本当にしみじみと思い入っておっしゃるにつけて、〔涙が〕ほろほろとこぼれ出るので、
「そうか。どちらに落ちるのだろうか」
とおっしゃる。
「今まで御子たちがいないことこそ、物足りない。東宮を院がおっしゃった様子に思うけれど、よくないことどもが起こりそうなので、心苦しく」
などと、世を御心の外に政をしなさる人々があるところに、若い御心に強いところのないほどで、お気の毒に思っていらしたことも多かった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第12冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。