ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第12帖 須磨 / 第16場面

大弐一行と五節の君

あらすじ・人物・読み方

上京する大弐の一行が須磨沖を通り、子の筑前守が訪れる。五節の君とは琴の音を縁に歌を交わす。

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現代語で読む

そのころ、大弐は都へ上るところであった。〔一行は〕厳めしく大人数で、娘が多くて場所が狭かったので、北の方〔大弐の妻〕は船で上京する。浦伝いにのんびりと進んで来ると、ほかの辺りよりも趣のある一帯なので、心が留まって、「大将〔源氏〕がこのようにいらっしゃる」と聞くと、困ったことに、風流心のある若い娘たちは、船の中にいてさえ恥ずかしく、恋心をかき立てられる。まして五節の君は、綱手を引きながら通り過ぎてしまうのも残念なところに、琴の音が風に乗って遥かに聞こえてくるにつけ、場所の様子、お方のご身分、楽の音の心細さが相合わって、心ある者はみな泣いてしまった。

帥〔大弐〕は、〔源氏へ〕ご挨拶を申し上げた。

「はるばる遠くから上京して参りましたら、まずはいち早くお仕えして、都のお話をとこそ、思っておりましたが、思いのほかに、このようにいらっしゃるお宿を素通りいたしますのは、恐れ多くも悲しいことでございます。存じ上げている人々や、しかるべきあれこれの者が大勢参って来ておりますので、場所の狭さをお察し申し、遠慮すべき事どもがございまして、お仕えできない次第です。あらためて参上いたしましょう」

などと申し上げた。息子の筑前守が参上した。この殿〔源氏〕が蔵人に取り立てて目をかけてくださった人なので、たいそう悲しく、つらく思うけれども、ほかに見る人々がいるので、世間の聞こえを気にして、しばらくも立ち止まることができない。

「都を離れて後は、昔親しかった人々とも、会うことが難しくなるばかりであったのに、このようにわざわざ立ち寄ってくださったこと〔はありがたい〕」

とおっしゃる。お返事もそのような趣旨であった。

守〔筑前守〕は、泣く泣く帰って、〔源氏の〕いらっしゃるご様子を語る。帥をはじめ、迎えの人々は、不吉なほど泣き声に満ちた。五節〔の君〕は、あれこれと手立てをして〔歌を〕申し上げた。琴の音に引き留められて、綱手縄にたゆたう私の心を、あなたはお分かりでしょうか。

風流心からとはいえ、どうぞ咎めないでください」

と申し上げた。〔源氏は〕微笑んで御覧になる、〔五節は〕たいそう恥ずかしそうである。心があって、引き手の綱がたゆたうならば、どうして通り過ぎることがありましょうか、須磨の浦波を。

漁りに出るような風流をするつもりはなかったのに、思いがけないことですよ」

とあった。駅の長に漢詩を作らせるほどの人もいたというのに、まして〔五節の君は、この歌の交わしに〕そのまま残ってしまいそうに思われた。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第12冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。