ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第12帖 須磨 / 第3場面

大殿の暁の別れ

あらすじ・人物・読み方

大殿に泊まった源氏は暁に辞し去る。入道の宮からの歌に心を尽くし、名残を惜しんで帰ってゆく。

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現代語で読む

三位中将〔頭中将〕も参り合わせて、大御酒などを差し上げなさるので、夜も更けたため、〔源氏は〕お泊まりになって、人々を御前に伺候させなさって、物語などをさせなさる。人より格別にひそかに慕っている中納言の君〔頭中将〕が、言いようもなく悲しく思っている様子を、〔源氏は〕人知れず痛々しくお思いになる。人々がみな静まったところで、特別に語らいなさる。これのために〔大殿に〕お泊まりになったのであろう。

夜が明けたので、夜深くまだ暗いうちにお出になるのに、有明の月がたいそう趣深い。花の木々も次第に盛りを過ぎて、わずかな木蔭が、たいそう白い庭に薄く霧のわたっているところに、とりとめもなく霞み合って、秋の夜のしみじみとした趣に多く勝っている。隅の欄干に寄りかかって、しばらく、眺めていらっしゃる。

中納言の君は、拝見してお見送りしようというのか、妻戸を押し開けて座っていた。

「またお目にかかることは、思えばたいそう難しい。このような世になるとは知らず、心安く過ごすこともできたはずのこの数か月、そんなに急がずに、隔ててしまったことよ」

などとおっしゃると、〔中納言の君は〕何も申し上げずに泣く。

若君の御乳母の宰相の君を通じて、宮〔藤壺〕の御前からお便りを申し上げてきた。

「自ら申し上げたいのですが、目の前が真っ暗になるような乱れた気持ちで躊躇っておりますうちに、たいそう夜深くお出になるというのも、様子の変わった心地ばかりがいたしますよ。お気の毒な方〔東宮〕が寝入っている間は、しばしもお休みにならないでお出になってしまうのですね」

と申し上げたので、〔源氏は〕泣きながら、〔あなたは〕鳥辺山で燃えた煙とも見紛うのではないかと、海人が塩を焼く浦へ見に行く〔須磨へ下ってゆく〕のですね。

お返事ともなく〔その歌を〕口ずさみなさって、

「暁の別れは、このようにばかり心を尽くさせるものですね。〔このつらさを〕思い知っていらっしゃる人もおありでしょう」

とおっしゃると、

「いつも、別れという言葉こそ、つらく思われます中でも、今朝はなお比べものがないほどに思われますことですよ」

と、鼻声で、本当に並々でなく思っていた。

「申し上げたいことも、繰り返し思っておりますが、ただ胸が結ぼおれている有様を、お察しください。寝入っている人〔東宮〕は、お目にかかるにつけても、かえって、憂き世を逃れがたく思われずにはいられないでしょうから、心強くお思いになるようにして、急いで退出いたします」

と申し上げなさる。

お出になる様子を、人々は覗いて拝見する。

入り方の月がたいそう明るいのに、ますます艶やかに清らかで、物思いに沈んだ様子は、虎や狼でさえ泣きそうである。まして、幼くいらっしゃったころから拝見し始めた人々なので、比べようのないご様子を痛々しく思う。

そういえば、お返事の歌は、亡き人〔桐壺院〕との別れは、ますます隔たってしまうのでしょうか。煙となって昇った雲の上でなければ逢えないのですね。

〔歌を〕取り添えて差し上げ、しみじみとした思いが尽きず、お出になってしまった名残を、不吉なほどにみな泣き合っていた。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第12冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。