ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第12帖 須磨 / 第4場面

二条院の別れと鏡の贈答

あらすじ・人物・読み方

二条院に帰った源氏は紫の上と鏡を前に歌を交わして別れを惜しむ。帥宮らも訪れる。

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現代語で読む

〔二条院の〕お邸にお着きになると、ご自分の御方の人々も、眠っていなかった様子で、所々に群れて座り、あきれたこととばかり世の中を思っている様子である。侍所には、親しくお仕えする者ばかりが、お供に参るべき心構えをして、私的な別れを惜しむ暇もないのか、人もいない。そうでない人は、見舞いに参るのも重い咎めがあり、煩わしいことが増えるので、所狭しと集まっていた馬や車の姿もなく、寂しいことに、「世は憂きものだったのだ」と、思い知らされる。

台盤なども、一方は塵をかぶって、畳も、所々裏返しになっている。「見る間だけでもこの有様だ。まして〔留守の間は〕どれほど荒れてゆくだろう」とお思いになる。

西の対にお渡りになると、御格子もお上げにならず、眺めて夜を明かしていらっしゃったので、簀子などに、若い童女たちが、所々に臥していて、今になって起き騒ぐ。宿直姿の者たちが趣深く座っているのを御覧になるにつけても、心細く、「年月が経てば、このような人々も、ずっと居続けることができずに、散ってゆくだろう」などと、そうもあるはずのないことまで、御目に留まるのであった。

「昨夜は、あれこれして夜更けになってしまったので。例によって、思いがけないことのようにお思いになったでしょうか。このようにおります間だけでも御目を離さずにと思うのに、このように世を離れる際には、お気の毒なことが自然と多くありましたのに、一方的に籠もってばかりいたのではいけません。無常な世の中で、人からも情けのない者と心に置かれてしまうのが、おいたわしくて」

と申し上げなさると、

「このような世を見るほかに、思いがけないこととは、何事でしょうか」

とだけおっしゃって、たいそう思い入れていらっしゃる様子が、人より格別なのは、もっともなことだ、父親王〔兵部卿宮〕が、たいそう疎遠に以前から思っていらっしゃる上に、まして、世間の噂を煩わしがって、お訪ね申し上げなさらず、お見舞いにさえお渡りにならないのを、人が見るだろうことも恥ずかしく、むしろ知られ申し上げないで済んでしまえばよかったものを、継母の北の方などが、

「突然だった幸運のあわただしさよ。ああ、何と不吉な。愛する人と、方々でお別れになる人だこと」

とおっしゃったのを、そういう伝手があって漏れお聞きになるにつけても、たいそう心憂いので、これからは絶えてお訪ね申し上げなさらない。また頼もしい人もなく、本当に、痛々しいご様子である。

「やはり世に許されにくくても、年月が経てば、岩の中〔須磨〕にもお迎え申し上げましょう。ただ今は、世間の聞こえがたいそうふさわしくないはずです。朝廷で畏れ慎んでいる人は、明らかな月日の光さえ見ず、安らかに身を振る舞うことも、たいそう罪が重いのです。過ちがなくても、そうあるべき運命でこのようなこともあるのだろうと思うにつけ、まして愛する人を連れて行くのは、例のないことなのを、ひたすら物狂わしい世の中で、〔連れて行けば〕さらにまさる非難もありましょう」

などとお話ししてお知らせなさる。

日が暮れるまで、〔源氏は〕お籠もりになっていた。帥宮〔兵部卿宮〕や、三位中将などがおいでになっていた。対面なさろうとして、御直衣などを差し上げる。

「位のない人は」

と言って、無紋の直衣が、かえって、たいそう慕わしいのを、お着になって、身をやつしていらっしゃるのが、たいそう立派である。御鬢をお掻きになるといって、鏡台にお寄りになると、面痩せなさったお姿が、ご自分ながらたいそう上品で清らかなので、

「格別に、衰えてしまったなあ。この鏡の影のように痩せておりますか。何とも痛々しいことだなあ」

とおっしゃると、女君は、涙をいっぱいに受けて、目を送っていらっしゃるのが、たいそう堪えがたい。私の身はこのようにさすらって行っても、あなたのそばを離れない鏡の影は、離れることはないでしょう。

と、申し上げなさると、お別れしても、影だけでも留まるものならば、鏡を見ても慰めましょうものを。

柱の陰に座って隠れて、涙を紛らわしていらっしゃる様子は、「やはり、これほど多く見る中にも類がなかった」と、思い知らされる人のご様子である。

親王〔兵部卿宮〕は、しみじみとしたお話を申し上げなさって、日が暮れるころにお帰りになった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第12冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。