ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第12帖 須磨 / 第6場面

出立の支度と尚侍への文

あらすじ・人物・読み方

源氏は身の回りを整え家政を西の対に託す。尚侍(朧月夜)とは文で歌を交わし、罪の思いを述べ合う。

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現代語で読む

〔源氏は〕万事の支度をさせなさる。親しくお仕えし、世に靡かない限りの人々や、お邸の事を取り行うべき上下の者を、お定め置きになる。お供に慕い申し上げる限りの者は、また選び出しなさった。

あの山里〔須磨〕のお住まいの道具は、どうしても取り使わなければならない物どもを、特に装いもなく切り詰めて、しかるべき書物ども、『文集』などが入った箱、それに琴を一つだけお持たせになる。場所を取る御調度や、華やかなお装いなどは、一切お持ちにならず、鄙びた山賤のようにお振る舞いになる。

お仕えする人々をはじめ、万事を、皆西の対〔紫の上〕に申し渡しなさる。領有なさる御荘園や御牧をはじめ、しかるべき所々の、証文などを、皆〔紫の上に〕差し上げてお置きになる。それ以外の御倉町や納殿などのことにまで、少納言を頼りになる者と御覧置きになっていたので、親しい家司どもを添えて、ご承知おきになるべき様子どもをおっしゃってお預けになる。

ご自身のお側の中務や中将などのような人々は、〔源氏の〕素っ気ないお扱いながらも、お目にかかる間だけは慰められてきたのに、「〔今後は〕何につけて〔慰めよう〕か」と思うけれども、

「命あってこの世にまた帰ることもあろうから、それを待ち受けようと思う人は、こちら〔西の対〕にお仕えなさい」

とおっしゃって、上下の者皆を〔西の対へ〕参上させなさる。

若君のお乳母たちや花散里なども、風情のある方面はさておき、実務の方面で思い寄らないことはない。

尚侍〔朧月夜〕のもとへ、無理を押して申し上げなさる。

「お尋ねくださらないのも、もっともなことと思いながらも、今はもうと、世を思い切るほどの憂さもつらさも、比べるものがないことでした。逢う瀬のない涙の河に沈んだのは、流れる澪の初めだったのでしょうか。

と思い出されることばかりが、罪を逃れがたく存じられました」

道中も危険なので、詳しくは申し上げなさらない。

女〔朧月夜〕は、たいそう悲しくお思いになって、堪えていらっしゃるが、御袖からあふれる〔涙〕も収まりきらないほどである。涙の河に浮かぶ水泡も、消えてしまうにちがいありません。流れてしまった後の瀬を待つこともなく。

泣く泣く乱れてお書きになったお筆跡は、たいそう趣がある。今一度の対面もないのかと思われるのは、やはり残念だけれど、思い返して、〔源氏を〕つらいと思いなさる因縁が多く、並々ならず堪えていらっしゃるので、強いて申し上げもなさらなかった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第12冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。