ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第12帖 須磨 / 第9場面

都立ちと須磨到着

あらすじ・人物・読み方

最後の夜を紫の上と過ごした源氏は舟で須磨へ下る。故郷を振り返り、到着の浦で歌を詠む。

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現代語で読む

その日は、女君〔紫の上〕にのどかにお話し申し上げて一日を暮らしなさって、例によって、夜深くお出になる。狩りの御衣など、旅のお装いを、ひどく質素になさって、

「月が出てしまったね。もう少し出て、見るだけでも見送ってくださいな。どんなに申し上げるべきことが多く積もっていることかと思われることでしょう。一日、二日たまさかに隔たる折でさえ、妙に鬱々とした心地がするというのに」

と言って、御簾を巻き上げて、端へお誘い申し上げると、女君は、泣き沈んでいらっしゃるのを、ためらって、座って出ていらっしゃるのが、月影に、たいそう趣深くていらっしゃった。「わが身がこのようにはかない世と別れるなら、どのような様子でさすらっていらっしゃるだろう」と、気がかりで悲しいけれど、思い入っていらっしゃるので、ますますそうであるべきことなので、生きている世の別れを知らないで契りながら、命を人に限ってしまったことですね。

はかないことです」

などと、軽いふうに言いなさると、惜しくない命に代えて、目の前の別れをしばらく留めてほしいものです。

「本当に、さぞお思いになるでしょう」と、たいそう見捨てがたいけれど、夜が明けきってしまえば、みっともないことになるので、急いでお出になった。

道すがら、〔紫の上の〕面影にぴったり添って、胸もふさがりながら、御舟にお乗りになった。日の長いころなので、追い風まで添って、まだ申の刻ばかりに、あの浦にお着きになった。かりそめの道程でも、このような旅に慣れていらっしゃらない心地で、心細さも趣も珍しいことである。大江殿と言った所は、ひどく荒れて、松ばかりが目印である。唐の国に名を残した人よりも、行方の知られない住まいをすることでしょう。

渚に寄せる波が返すのを見て、「羨ましくも」と、口ずさみなさる様子は、そのような世の古歌だけれど、珍しく聞きなされて、悲しいとばかりお供の人々は思っていた。振り返りなさると、来た方の山は霞が遥かで、本当に「三千里の外」の心地がするので、櫂の雫も堪えがたい。故郷を峰の霞は隔てているけれど、眺める空は同じ雲の居場所でしょうか。

つらくないものはないのだった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第12冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。