第14帖 澪標 / 第4場面
二条院の造営と姫君の誕生
あらすじ・人物・読み方
明石からは明石の君が女君を出産した報せが届き、宿曜の勘文は姫君に帝の母となる運命を示していた。源氏は姫君を迎えるべく、二条院に東の宮を造営させる。
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現代語で読む
二条院でも、同じように〔源氏を〕お待ち申し上げている人〔花散里〕を、気の毒なものとお思いになって、長年の胸が晴れるほどにお思いになると、中将や中務といった女房たちには、それぞれの身分に応じて情けをおかけになるが、〔源氏は〕お暇がなくて、ほかの女性のもとへお出歩きになることもなさらない。
二条院の東にある宮邸は、院からお譲りになったものであったのを、またとないほどに改めてお造らせになる。「花散里などといった気の毒な人々を住まわせよう」などと、お心に当てて修理させなさる。
そういえば、「あの明石で、気の毒そうであったことはどうなったか」と、お忘れになる時がないので、公私とも忙しい紛れに、思いのままにお訪ねになることもできなかったが、三月一日ごろ、「このころであろうか」と思いを馳せなさると、人知れずしみじみとして、お使いを遣わされた。〔使いは〕早く帰って参って、
「十六日でございます。女の子で、無事にご出産になりました」
と告げ申し上げる。珍しいこと〔女の子であること〕でさえあると思われると、〔お気持ちは〕並々ではない。「どうして、京に迎えて、このような〔出産の〕こともさせてあげなかったのか」と、残念にお思いになる。
宿曜の占いに、
「御子は三人。帝と后が必ず並んでお生まれになるはずである。真ん中の劣った子は、太政大臣として位を極めるはずである」
と、勘文を申し上げていたことは、そのとおり叶いそうである。大方、この上ない位に昇って、世の政治をお執りになるはずであることを、あれほど賢かった多くの相人たちが申し上げ集めていたのを、長年は世間の煩わしさにすっかりお忘れになっていたが、今の帝がこのように〔予言の〕位に適いなさったことを、思いのとおりにうれしいとお思いになる。ご自身も、「〔帝と〕かけ離れていらっしゃる筋は、決してあってはならないことだ」とお思いになる。
「多くの皇子たちの中で、特に可愛らしい者とお思いになっていたけれど、ただの人としてお考えになっていた〔父帝の〕お気持ちを思うと、前世からの因縁は遠かったのだなあ。内裏にこのようにいらっしゃるのを、表立って人が知ることではないけれど、相人の言ったことは空ではなかった」
と、心の内にお思いになった。今、将来のおよそのことをお思いになると、
「住吉の神の導きは、まことにあの人〔明石の君〕も世に並ぶ者のない宿世の持ち主で、偏屈な親も及ばないほどの心遣いをするのであったのだろうか。それならば、尊い筋にもなるはずの人〔姫君〕が、卑しい世界で生まれたであろうことは、気の毒でもあり恐れ多くもあることだなあ。この時期が過ぎたら〔京へ〕迎えよう」
とお思いになって、東の院を急いで造るべき旨を、促してお命じになる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第14冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。