ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第14帖 澪標 / 第3場面

冷泉帝の即位

あらすじ・人物・読み方

如月に春宮が元服し、朱雀帝は譲位して冷泉帝が即位する。源氏は内大臣に進み、政務の中心に立って栄華を極めていく。

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現代語で読む

明くる年の如月に、春宮の御元服のことである。十一におなりになるが、年齢より大きく、大人びて清らかで、ただ源氏の大納言の御顔を二つに写したかのようにお見えになる。たいそうまばゆいまで光り合っていらっしゃるのを、世の人は素晴らしいものと噂するけれど、母宮は、ひどく傍らで見ていて辛いことに、やたらと御心をお尽くしになる。

内裏でも、素晴らしいとご覧申し上げなさって、世の中をお譲り申し上げるべきことなどを、親しみ深くお聞かせ知らせなさる。

同じ月の二十日余り、御譲位のことが運んだので、大后はお思い慌てていらした。

「甲斐のない様子ながらも、心のどかにご覧になれることを思うのです」

と、〔帝は〕お聞かせになってお慰めになった。

春宮坊には承香殿の皇子がお移りになった。世の中は改まって、打って変わって今風なことが多い。源氏の大納言は、内大臣におなりになった。〔大臣の〕数が定まっていて、くつろぐ席もなかったので、〔定員に〕加わりなさるのであった。

そのまま世の政務をなさるはずであるけれど、「そのような煩わしい職には堪えられません」と言って、致仕の大臣に、摂政をなさるべき旨を、お譲り申し上げなさる。

「病によって、位をお返し申し上げたのに、ますます老いが積み重なって、賢明なことはございません」

と、〔致仕の大臣は〕お引き受け申し上げなさらない。「他国でも、事態が移り世の中が定まらない折は、深い山に跡を絶った人でさえ、治まった世には、白髪も恥じず出て仕えたのをこそ、真の聖としたものです。病に沈んで、お返し申し上げた位を、世の中が変わってまた改めなさるのに、決して咎があるはずはない」と、公私ともに定められる。そのような例もあったので、辞退し切れなさらず、太政大臣におなりになる。御年も六十三におなりになる。

世の中が殺伐としていたため、一方では籠もっていらしたのを、取り返して華やかにおなりになると、御子方など沈むようにしていらしたのが、皆浮かび上がりなさる。とりわけ、宰相中将は、権中納言におなりになる。あの四の君の御腹の姫君が、十二におなりになるのを、内裏に参らせようと大切にお育てになる。あの「高砂」を歌った君も、冠をさせて、たいそう思いのままである。腹々に御子方がたいそう大勢次々に育ち出て、賑やかな様子なのを、源氏の大臣は羨ましがりなさる。

大殿腹の若君は、人より特に美しくて、内裏や春宮の殿上をなさる。亡くなった姫君への嘆きを、宮も大臣も、また改めてお思い嘆く。けれども、いらっしゃらない名残も、ただこの大臣の御光によって、万事おもてなしなさって、長年、お思い沈んでいた名残がないまでにお栄えになる。なお昔と御心ばえは変わらず、折節ごとに〔大臣が〕お渡りになるなどしながら、若君の御乳母たちや、そうでない人々も、長年の間退出して散らなかったのは、皆ふさわしいことに触れながら、縁をつけようとお考え置きになったので、幸いな人が多くなるにちがいない。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第14冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。