ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第16帖 関屋 / 第4場面

常陸守の死と空蝉の出家

あらすじ・人物・読み方

老いた常陸守は子どもたちに源氏へ仕えるよう言い置いて亡くなる。未亡人となった空蝉に河内守が言い寄ると、空蝉は誰にも知らせず尼になる。

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現代語で読む

こうしているうちに、この常陸守は、老いの積もりだろうか、患いがちでばかりいて、心細く思われたので、子どもたちに、ただこの君〔源氏〕のおことだけを言い残して、「万事、ただこの方のお心にだけ任せて、元気だった頃と変わらずにお仕え申し上げよ」とだけ、明け暮れ言っていた。

女君が、「情けない宿世があって、この人にさえ先立たれて、どのような有様でさまよい暮らすことになるのだろう」と思い嘆くのを見るにつけ、「命には限りがあるものだから、惜しんでも止める手立てはない。どうにか、この人のためにお役に立つ魂を残しておきたいものだ。わが子どもの心も分からないのに」と、心配で悲しいことに、言ったり思ったりするけれど、心に留めることはできないもので、〔常陸守は〕亡くなってしまった。

しばらくの間こそ、「あのようにおっしゃったのに」などと情けをかけもするが、それも上辺だけで、辛いことが多かった。あれもこれも世の道理なので、我が身一つの辛いこととして、嘆き明かし暮らす。ただ、この河内守だけが、昔から好き心があって、少し情けをかけてくれた。

「しみじみとおっしゃり置いたのだから、物の数でなくても、疎んじるほどにはおっしゃらないでください」などとへつらって近寄り、あさましい心が見えたので、

「情けない宿世のある身で、こうして生き長らえて、ついには珍しいことどもまで聞き加えることよ」と、人知れず思い知って、人にそうだとも知らせずに、尼になってしまった。

周りの人々は、言っても甲斐がないと、思い嘆く。守も、ひどく辛そうに、「私をお厭いになるほどに。残りのご寿命は長くおありでしょう。どうしてお過ごしになるのでしょう」などと、無用の出しゃばりだなどと、言っているようである。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第16冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。