第17帖 絵合 / 第2場面
前斎宮の入内と帝の御覧
あらすじ・人物・読み方
源氏は院に憚りながらも入内の支度を整え、前斎宮は夜更けて参上する。冷泉帝は弘徽殿女御と前斎宮とを見比べ、権中納言や兵部卿宮もそれぞれに思いを寄せる。
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現代語で読む
「院のご様子は、女として拝見したいほどであるのに、この〔斎宮の〕ご様子も似ていないではなく、たいそうよいお仲であるようなのに、帝〔冷泉帝〕はまだたいそう幼くていらっしゃるらしいのに、このように取り違えて申し上げるのを、人知れず、どうお思いだろうか」などと、憎らしいことまでお思いやりになって、胸がつぶれる思いなさるけれど、今日になって思い止まるべきことではないので、物事をしかるべき様に言い置いて、親しく思う修理宰相に詳しくお仕えするようおっしゃって、内裏へ参上なさった。
「張り合うような親の様子としては、お聞きになるまい」と、院には包み隠して申し上げなさって、お見舞いだけのことと、見せなさった。よい女房などは、もとから多い宮であるので、里に下がりがちだった者も参り集まって、たいそうまたとないほどで、様子も見事である。
「ああ、いらっしゃったら、どんなにか甲斐があって、大切になさったことだろう」と、昔のご人柄をお思い出しになると、「おしなべて世間についても、惜しくももったいなかった人のご様子であるよ。そのような方は得がたいものであった。風雅のあった点では、やはり優れておられた」と、物の折ごとに思い出して申し上げなさる。
中宮〔藤壺〕も内裏にいらっしゃった。主上〔冷泉帝〕は、珍しい人が参上なさるとお聞きになったので、たいそう可愛らしくお心遣いをしていらっしゃる。年のほどよりはたいそう利口で大人びていらっしゃる。宮〔中宮〕も、
「このように恥ずかしい人が参上なさるのですから、お心遣いをして、お目にかからせてください」と申し上げなさった。
人知れず、「大人は恥ずかしいだろうか」とお思いだったところ、ひどく夜が更けてから参上なさった。たいそう慎ましげでゆったりとして、かすかにか弱い様子でいらっしゃるので、たいそう趣がある、とお思いになった。
弘徽殿〔女御〕には、見慣れていらっしゃるので、睦まじくあわれに気やすくお思いになり、こちら〔前斎宮〕は、人柄もひどくしっとりとして、恥ずかしげで、大臣のおもてなしも格別に立派なので、侮りがたくお思いになって、お宿直などは等しくなさるけれど、打ち解けたご幼い遊びに、昼などお渡りになることは、あちら〔弘徽殿〕のほうが多くていらっしゃる。
権中納言は、思いを寄せて申し上げていたのに、このように参上なさって、ご自分の娘に競う様子でお仕えになるのを、あちこちで穏やかでなくお思いだろう。
院〔朱雀院〕は、あの櫛の筥のお返事をご覧になったことにつけても、お心が離れがたくていらっしゃった。
そのころ、大臣〔源氏〕が参上なさった折に、お話は細やかである。ことのついでに、斎宮が伊勢へ下られたことを、以前からお話し申し上げなさるので、〔院が〕お話し出しになって、そう思う心があったなどとは、お表しにならない。大臣も、このようなご様子を聞く顔ではなく、ただ「どうお思いか」と知りたさに、あれこれあの方のことをお話し出されると、あわれなご様子が浅くなく見えるので、たいそう痛わしくお思いになる。
「すばらしいと、お思い染みていらしたお顔立ちは、どのような趣きなのだろう」と、知りたく思い申し上げなさるけれど、まったく拝見申し上げることがおできにならないのを、残念にお思いなさる。
たいそう慎み深くて、夢にも幼いお振る舞いなどがあればこそ、自然とほのかに拝見する機会もあろうが、奥ゆかしいご様子ばかりが深まるので、拝見申し上げるにつけて、たいそう見事だとお思い申し上げていた。
このように隙間なく、二人の女御がお仕えなさっているので、兵部卿宮は、すんなりとはお思い立つことができず、「帝がお成長なさったら、そうはいっても、お捨てになることはあるまい」と、待ち過ごしていらっしゃる。二人の女御のお寵愛は、それぞれに競っていらっしゃった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第17冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。