第19帖 薄雲 / 第2場面
袴着の相談、師走の雪
あらすじ・人物・読み方
袴着について源氏から尋ねられた明石の君は、姫君の将来を案じつつ返事をし、源氏は日を選んで準備を進めさせる。乳母とも別れることを思って君は泣き、師走の雪の中で姫君を撫でながら、離れた後の心もとなさを嘆く。
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現代語で読む
「御袴着のことは、どのように〔なさるおつもりか〕」
とおっしゃったことへのお返事に、
「万事を、甲斐のない身に引き比べて申し上げては、本当に〔姫君の〕将来も痛々しく思われますが、〔人の中に〕立ち交じっても、どれほど人の笑いものになるでしょうか」
と申し上げたのを、いよいよあわれにお思いになる。
〔源氏は〕日などを選ばせなさって、忍ぶように、しかるべきことなどをおっしゃり置かせなさる。〔明石の君は姫君を〕手放し申し上げることは、やはりとてもあわれに思われるけれど、「君〔姫君〕のためによいはずのことをこそ」と心に念じる。
「乳母とも引き別れるだろうこと。明け暮れの物思わしさや、所在なさをも打ち明けて語り合って、慰め合ってきたのに、いよいよ頼る方途のないことまで加わって、ひどく思われるだろうこと」と、君〔明石の君〕も泣く。
乳母も、
「そうなるべき運命でしょうか、思いがけない様子で、〔姫君を〕拝見し始めて、長年〔あなた様の〕ご気性が、〔姫君には〕忘れ難く恋しく思われなさるはずなのに、音信が絶えるようなことは決してございません。最後にはと頼みにしながらも、しばらくの間でも、よそよそしく、思いがけない交わりをすることになるのが、心安らかではいられないことです」
などと言って、泣きながら過ごすうちに、師走にもなった。
雪が、霰まじりに降りがちで、心細さが増して、「不思議とさまざまに、物思いをするはずの身であることよ」と、嘆いて、いつもよりもこの君〔姫君〕を撫でて整えながら眺めていた。
雪が空を暗くして降り積もる朝、過ぎたことと将来のことを、残らず思い続けて、普段は特に端近くに出て座るようなこともしないのに、汀の氷などを見やって、白い衣どもを柔らかなものを数多く着て、眺めている様子や、頭つき、後ろ姿などは、「限りない〔高貴な〕人と聞くとも、このようにこそおいでだろう」と人々も見る。落ちる涙を掻き払って、
「このような〔雪の〕日でさえこうなのに、まして〔姫君と離れたら〕どれほど心もとなく思うだろう」と、いとおしげに嘆いて、
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第19冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。