ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第19帖 薄雲 / 第3場面

雪の歌、姫君の旅立ち

あらすじ・人物・読み方

雪の朝、明石の君は源氏へ文の往来を願う歌を詠み、乳母が返歌で慰める。雪が解けて源氏が訪れ、姫君の愛らしさと母の心の闇に心を痛めて夜通し語り明かす。やがて姫君は母と松の歌を交わして別れ、源氏の慰めを受けて二条院へ旅立つ。

下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。

表示と音声の設定

任意の復習へ

現代語で読む

雪が深く、深山の道が晴れなくても、なお文をやりとりしてください。行き来の跡が絶えないように。

と〔明石の君が〕おっしゃると、乳母は思わず泣いて、

雪に閉ざされた吉野の山を訪ねて行っても、心の通い合う跡が絶えることがありましょうか。いえ、決して絶えません。

と言って慰める。

この雪が少し解けて、〔源氏が〕お越しになった。いつも〔源氏の〕お越しを待ち申し上げるにつけても、そうなるだろうと思われることのために、胸がつぶれる思いがして、他人事でなく身にしみて感じられる。

「自分の心の持ちようだろう。お断り申し上げるのを無理にしても、つまらないことだ」とは思われるけれど、「軽々しいことのようだ」と、せめて思い返す。

たいそう可愛らしい様子で、〔源氏の〕前にお座りになっているのをご覧になると、

「並々では思いがたいほどの宿世であることよ」

とお思いになる。この春から伸ばし始めた御髪は、尼削ぎほどの長さで、ゆらゆらと見事で、顔立ちや目元の香るような美しさなどは、言うまでもない。〔母君が姫君を〕よそへ思いやる親の心の闇を推し量りなさると、たいそう心苦しいので、繰り返しおっしゃって夜を明かす。

「どういうことでしょう。こんなに口惜しい身のほどでさえなければ、〔もっと〕おもてなしくださったでしょうに」

と申し上げるものの、堪えきれずに泣く様子は、あわれである。

姫君は、何もわからず、御車に乗ることを急ぎなさる。〔車を〕寄せた所へ、母君が自ら抱いてお出になった。片言で、声はたいそう可愛らしく、〔母の〕袖をつかんで、「お乗りなさい」と引くのも、たいそう痛ましく思われて、

末の遠い二葉の松〔姫君〕と引き離されて、いつ木高く育った姿を見ることができるでしょう。

〔歌を〕最後までも言い終えられず、ひどく泣くので、

「そうだろう。ああ苦しい」とお思いになって、

生え始めた根も深いのだから、武隈の松に小松〔姫君〕の千代を並べさせましょう。末長く栄えさせましょう。のどかであれよ、と慰めなさる。そうしたことだと心を静めようとするけれど、どうしても堪えられなかった。乳母の少将といって、気品のある人が、御佩刀や天児のような人形などを手に取って〔車に〕乗る。人柄のよい若者や童女などを乗せて、お見送りに参らせる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第19冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。