ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

源氏物語 第19帖

薄雲 うすぐも

あらすじ

大堰に住む明石の君は、姫君を二条院の源氏のもとへ譲る決心をし、雪の朝の歌を交わして別れる。藤壺が病に伏して亡くなると、ゆかりの老僧都が冷泉帝に出生の秘密を明かし、帝は譲位と源氏の処遇をめぐって苦悩する。秋、源氏は斎宮女御を訪って秘めた思いの応酬を交わし、大堰の明石の君とは篝火の歌を詠み交わす。

この帖の人物

場面 第1–5場面

第1場面大井の冬、引き取りの勧め冬の大井の川辺で心細く暮らす明石の君に、源氏は姫君を二条院の紫の上に預けるよう真剣に勧める。母の尼君も姫君の将来のため引き渡しを説き、占いも同じ結論を示すが、君は思い弱り、源氏もその痛々しさに強いては言えない。第2場面袴着の相談、師走の雪袴着について源氏から尋ねられた明石の君は、姫君の将来を案じつつ返事をし、源氏は日を選んで準備を進めさせる。乳母とも別れることを思って君は泣き、師走の雪の中で姫君を撫でながら、離れた後の心もとなさを嘆く。第3場面雪の歌、姫君の旅立ち雪の朝、明石の君は源氏へ文の往来を願う歌を詠み、乳母が返歌で慰める。雪が解けて源氏が訪れ、姫君の愛らしさと母の心の闇に心を痛めて夜通し語り明かす。やがて姫君は母と松の歌を交わして別れ、源氏の慰めを受けて二条院へ旅立つ。第4場面二条院の姫君、袴着二条院に着いた姫君は、華やかな邸に迎えられ、乳母の部屋も用意される。母を求めてひそむ姫君も、やがて紫の上に懐いて馴染んでいく。袴着の日には、襷を引き結んだ姫君の胸元がひときわ可愛らしく見える。第5場面大堰の贈り物、年の暮れと新年源氏は大堰の明石の君を絶えず恋しく思い、直接尋ねる代わりに乳母をはじめ御方の人々へ世にもないほどの贈り物を届け、年の内にも忍んで訪れる。年が明けると二条院では参集した人々が華やかに新年を過ごし、東の院の花散里も控えめながら源氏の心遣いを受けて穏やかに暮らす。

場面 第6–10場面

第6場面源氏の大堰行き、遠方人の歌公私の忙しさが過ぎた頃、源氏は装いを整えて大堰の明石の君のもとへ渡る。姫君に慕われて足止めされる源氏に、明石の君は中将の君を介して「遠方人」の歌を聞こえさせ、源氏は返歌で明日も訪れると応える。大堰での対面の後も、出しゃばらず卑下もしない明石の君の慎ましい振る舞いが、源氏の心をますます惹いていく。第7場面太政大臣の死、天変のしるし政の重しであった太政大臣が亡くなり、朝廷も世の人も深く嘆く。若い冷泉帝には確かな後見がなく、譲位の本意を遂げられないことを口惜しく思う。その年は天変や異変の前兆がしきりに現れ、源氏だけが心のうちに煩わしく思い知ることがある。第8場面藤壺の病と崩御、薄雲の歌入道后藤壺が春から病み続け、三月に重くなって冷泉帝が見舞う。三十七歳で灯が消えるように崩御し、源氏は長年の思いも絶えたことを嘆く。葬送の後、二条院で夕日の峰にたなびく薄雲を眺め、亡き人を偲んで独り歌を詠む。第9場面僧都、帝に秘密を告げる藤壺の祈りの師だった老僧都は、内裏に召されて侍る静かな暁、冷泉帝に奏上しがたい大事があると切り出す。長く心に秘めてきた出生の秘密を詳しく奏上すると、帝は驚き悲しんで心を乱し、僧都は王命婦のほかに知る者はいないと泣く泣く申し上げて退出する。第10場面帝の苦悩と譲位の思い秘密を知った冷泉帝は、亡き院への気がかりと、ただ人として仕える源氏への申し訳なさに思い悩む。帝は心安い暮らしを望んで源氏に漏らすが、源氏は固く諫め、若い帝は言い出せずになつかしく語らうばかりである。秋の司召のついでに帝が源氏を親王にと漏らしても、源氏は亡き院の御心を引いて固辞する。

場面 第11–15場面

第11場面王命婦への問い、秋の二条院太政大臣への任官はしばらく見送られ、源氏は位を添えて牛車を許されて参内退出するが、帝はなお親王にと望む。源氏は誰が秘密を漏らしたのか訝り、王命婦に対面して漏洩の有無を確かめ、藤壺の心深さを恋しく思う。秋、源氏は二条院の斎宮女御のもとへ赴き、親のようにもてなして世話をする。第12場面斎宮女御を訪う秋の雨の夕べ、源氏は二条院に移った斎宮女御を訪い、野宮の昔などを語り合う。源氏は亡くなった六条御息所への思いと、もう一つ言いさした心のうちを明かし、女御への秘めた後見の情をほのめかすが、女御の応答は乏しく、暮れるまでしめやかに過ごす。第13場面春秋の好みと秋の夕風の歌源氏は花や紅葉を庭に移して女御に見せたいと語り、春と秋のどちらに心を寄せるかと問う。女御が亡き母を思わせる夕べに触れて答えると、源氏は忍びがたい思いを込めて秋の夕風の歌を詠みかけるが、女御は戸惑い、源氏は若々しい振る舞いを反省して引き下がる。第14場面移り香と紫の上との語らい源氏の衣に残った移り香を女房たちが言い合う。対に戻った源氏は女御への思いを自ら戒めつつ、悩む女御の様子を思いやる。そして紫の上に、女御が秋に、紫の上が春の曙に心を寄せるのはもっともだと語らい、女御のために何かしてやりたいと漏らす。第15場面大堰の篝火、歌の応酬源氏は大堰にいる明石の君を絶えず思いやり、不断の念仏にかこつけて訪れる。木の繁る住まいで篝火の影に心を添わせる源氏に、明石の君は篝火に寄せた歌を詠み、源氏は下からの思いの深さを知らないのかと返歌して恨む。静かに仏道に心の留まるころで、源氏は例より長く滞在する。

出典・底本

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第19冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。