第52帖 蜻蛉 / 第14場面
噂の広がり
あらすじ・人物・読み方
一品の宮のもとで、浮舟の失踪をめぐる噂が語られ、二の宮は口外を戒める。
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「今より慣らわせなさるこそ、げに若くなさるのだろう」
など、儚いことを言う人々の気配も、不思議に雅かに、風情がある御方の有様にぞある。その事となくけれど、世の中の物語などしつつ、静かに、例よりは居なさっていた。
姫宮は、あなたにお渡りになってしまった。大宮が、
「大将がそなたに参ったのは」
とお問いになる。御供に参っていた大納言の君が、
「小宰相の君に、物を仰ろうとにこそ、あるようでした」
と申し上げるのに、
「例の、真面目な人が、さすがに人に心を留めて物語するこそ、心地後れていた人の苦しいだろう。心のほども見えるのだろうよ。小宰相などは、ひどく後ろ安い」
と仰って、御姉弟だけれど、この君をば、なお恥ずかしく、「人も用意なくて見えないのだろうよ」と思っていた。
「人よりは心を寄せなさって、局などに立ち寄りなさるでしょう。物語を細やかにしなさって、夜更けてお出でになる折々もありますけれど、例の目慣れた筋にはないのだろうか。宮をこそ、ひどく情けなくいらっしゃると思って、御応えをさえ申し上げずあるようだ。勿体ないこと」
と言って笑うと、宮も笑わせなさって、
「ひどく見苦しい御様子を、思い知るこそ可笑しい。どうして、このような御癖を止め申し上げよう。恥ずかしいよ、この人々も」
と仰る。
「ひどく不思議なことをこそ聞きました。この大将がお亡くなしなさった人は、宮の御二条の北の方の御弟だそうです。異腹であるでしょう。常陸の前の守何某の妻は、叔母とも母とも言いますのは、どのようなのだろうか。その女君に、宮こそ、ひどく忍んでいらっしゃったそうです。
大将殿が聞きつけなさっていたのだろうか。急にお迎えになろうといって、守り目を添えなど、仰々しくしなさっていたほどに、宮も、ひどく忍んでいらっしゃりながら、入れさせなさらず、不思議な様子に、御馬のままたたせなさりつつぞ、お帰りになった。
女も、宮をお思い申し上げさせていたのだろうか、急に消え失せてしまったのを、身投げしたようだといってこそ、乳母などのような人々は、泣き惑っていました」
と申し上げる。宮も、「ひどく浅ましい」と思いなさって、
「誰か、そのようなことは言うのか。痛々しく心憂いことだなあ。それほど珍しくあるだろうことは、おのずから聞こえがあるべきなのを。大将もそのようには言わないで、世の中の儚く悲しいこと、このように宇治の宮の族の、命が短かったことをこそ、ひどく悲しいと思って仰っていた」
と仰る。
「いや、下臈は、確かでないことをも言います物を、と思いましたけれど、あちらにあった下童が、ただこの頃、宰相の里に出で参って来て、確かなようにこそ言っていました。このように不思議でお亡くなりになったこと、人に聞かせるな。仰々しく、恐ろしいようだと言って、ひどく隠した事どもといって。それで、詳しくは聞かせ申し上げなかったのだろうか」
と申し上げると、
「さらに、このようなこと、また真似ぶな、と言わせよ。このような筋に、御身をも持て損ない、人に軽く心付きない物に思われそうだ」
とひどく思いなさっていた。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第52冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。