ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第7帖 紅葉賀 / 第10場面

四月の参内、撫子の歌

あらすじ・人物・読み方

若宮が参内し、帝は源氏にそっくりな顔を「似通うものだ」と喜びます。いたたまれず退出した源氏は、常夏(撫子)の花に歌を添えて命婦のもとへ送り、藤壺から短い返歌を得て涙します。

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現代語で読む

四月に〔藤壺と若宮は〕内裏へ参上なさる。〔若宮は〕日数の割に大きくお育ちになって、次第に寝返りなどをなさる。驚くほど間違えようのない御顔つきを、〔帝は〕思いも寄らないことなので「並ぶ者のない美しい者同士は、なるほど似通うものだ」とお思いになった。たいそう大切にお慈しみになること、この上ない。

源氏の君を限りない者とお思いになりながら、世の人が許し申し上げそうになかったために東宮にもお据え申し上げられずに終わったことを、どこまでも残念に、臣下としてもったいない御様子・容貌で成人して行かれるのを御覧になるにつけ、お気の毒にお思いになるのを、「このように高貴なお方のお腹から、同じ光でお生まれになったのだから、疵のない玉だ」とお思いになって大切になさるので、宮〔藤壺〕は何につけても胸の痛む間がなく、安らかでなく物を思われる。

いつものように中将の君がこちらで管弦のお遊びをなさっていると、〔帝は若宮を〕抱き出させ申し上げなさって、「御子たちは大勢いるが、そなただけをこれほど小さい時から明け暮れ見てきた。それで思い出されるのだろうか。とてもよく似ている。ひどく幼いうちは皆こういうものなのだろうか」と言って、たいそう可愛らしいとお思い申し上げあそばされている。中将の君は顔色が変わる心地がして、恐ろしくも、畏れ多くも、嬉しくも、哀れにも、あれこれと移ろう思いで、涙が落ちてしまいそうである。お喋りなどをして微笑んでいらっしゃる〔若宮の〕様子が恐ろしいほど可愛らしいので、自分ながら、この子に似ているのは大変にもったいなくお思いになるとは、身贔屓が過ぎるというものよ。宮〔藤壺〕は、どうにもいたたまれなくて、汗まで流していらっしゃった。中将は、かえって心の乱れるような思いなので、退出なさった。

〔源氏は〕自分の部屋に臥せって、「胸の遣る方ない思いが収まってから大殿へ」とお思いになる。お庭の前栽が何となく青々と見渡される中に、常夏が鮮やかに咲き出ているのを折らせなさって、命婦の君のもとへ、お書きになることは多いようである。(若宮に)寄せて眺めても心は慰まず、かえって涙の露に濡れる思いが増すばかりです、撫子の花よ。とある。ちょうど良い隙があったのであろうか、〔命婦が藤壺に〕御覧に入れて、「ほんの塵ほどでも、この花びらに〔お返事を〕」と申し上げるのを、御自身にもひどく哀れに思い知られる折だったので、涙で袖を濡らす方ゆかりのものと思うにつけても、やはり疎ましく思われてしまうのです、大和撫子は。とだけ、ほのかに書きかけたような返歌を、〔命婦が〕喜びながら差し上げたのを、「いつもの事だから効はあるまい」と力なく眺めて臥せっていらっしゃったところへ、胸が騒いで、ひどく嬉しいのにも涙がこぼれた。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第7冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。