ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第7帖 紅葉賀 / 第9場面

若宮を見たい源氏

あらすじ・人物・読み方

生まれた若宮は源氏に生き写しでした。源氏は若宮を一目見たいと王命婦に泣いて訴え、「いかさまに昔結べる契りにて」の歌を託しますが、藤壺は露見への恐れに心を閉ざし続けます。

下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。

表示と音声の設定

任意の復習へ

現代語で読む

〔藤壺は〕「長く生きよう」と思うのは辛いけれど、「弘徽殿などが呪わしそうに言っている」と聞いたのを、「〔私が〕死んだと聞きなされたら物笑いの種になろう」と気を強く持ち直して、次第に少しずつ快方に向かわれたのであった。

主上〔帝〕が、早く〔若宮を〕見たいとお思いになること、この上ない。あの、人知れぬお心〔源氏〕にもひどく気がかりで、人のいない時に参上して、「主上がお見たがりあそばしていますので、まず拝見して詳しく奏上しましょう」と申し上げなさるが、〔藤壺は〕「まだ見苦しい頃ですから」と言ってお見せ申し上げなさらないのも、もっともである。実は、驚くほど珍しいまでに〔源氏を〕写し取ったようなお顔で、間違えようもない。

宮は良心の呵責にひどく苦しみ、「女房たちが拝見しても、不審だった月数の狂いを、どうして訝らずにいられようか。そうでない些細な事でさえ疵を探す世の中で、どんな噂がついに漏れ出ることだろう」と思い続けなさると、我が身だけがひどく情けない。

〔源氏は〕命婦の君に稀にお会いして、切ない言葉を尽くしなさるが、何の甲斐があるはずもない。若宮の事を無性に見たがってお訴え申し上げなさるので、〔王命婦は〕「どうしてそんなにまで無理におっしゃるのでしょう。そのうち自然に御覧になれますよ」と申し上げながら、悩む様子はお互いに並々ではない。気が引ける事なので正面切っては言えず、「いつの世に、人づてでなく、直接お話し申し上げられるでしょう」と言ってお泣きになる様子が、お気の毒である。

前世でいったいどのように結んだ約束だったのでしょう。この世でこんなにも二人の仲に隔てがあるとは、その契りがどうにも納得できません。御覧になっている方でさえ物思いをなさっているのですから、御覧になれないあなたはどれほどお嘆きでしょう。これが世の人の言う親の心の闇なのでしょうね。と、〔王命婦は〕忍んでお答え申し上げたのであった。〔藤壺は〕こうとばかり言いやる術もなく、〔源氏が〕お帰りになるものの、世間の噂も煩わしいので無理なことをお言わせ思いもして、命婦をも昔信頼していたようには打ち解けて近づけなさらない。人目に立たないよう穏やかにお付き合いなさる一方で、気に食わないとお思いになる時もあるだろうに、〔命婦は〕ひどく辛く思いがけない心地がするのであろう。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第7冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。