第7帖 紅葉賀 / 第15場面
藤壺の中宮、源氏の参議
あらすじ・人物・読み方
七月、藤壺が中宮に立ち、源氏は参議となります。帝は若宮を東宮に立てる布石として母宮の地位を固めたのでした。輿に供奉する源氏は「尽きもせぬ心の闇に暮るるかな」と独りごち、若宮はますます源氏に似てゆきます。
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現代語で読む
七月に〔藤壺が〕中宮にお立ちになるようであった。源氏の君は参議〔宰相〕におなりになった。帝は譲位のお心づもりが近くなって、この若宮を東宮に、とお考えあそばすが、後見をなさるべき方がいらっしゃらない。お母方の方は皆親王たちで、〔皇族は〕政務を執る筋合いではないので、せめて母宮だけでも揺るがない地位にお据え申し上げて、その力に、とお思いなのであった。
弘徽殿女御がますます心穏やかでないのは道理である。けれども、〔帝は〕「春宮の御代はもうすぐになったのだから、確かな御位〔皇太后〕です。お心を静めなさい」とお慰め申し上げあそばしたのであった。「なるほど、春宮の御母として二十余年になる女御を差し置いては、先を越させ申し上げるのは難しいことだ」と、例によって穏やかでなく世の人も噂した。
〔藤壺が中宮として〕参内なさる夜のお供に、宰相の君〔源氏〕もお仕え申し上げなさる。同じ宮と申し上げる中でも、后腹の皇女で玉のように光り輝き、類のない御寵愛さえ受けていらっしゃるので、人々もひどく特別に思いお仕え申し上げた。まして切ないお心〔源氏〕では、御輿の中も思いやられて、ますます手の届かない心地がなさる上に、じっとしていられないほどである。尽きることのない恋の思いの闇に暮れてしまうなあ。はるか雲居の上の人を仰ぎ見るにつけても。皇子はお育ちになる月日に従って、ひどく見分け申し上げにくいほど〔源氏に似て〕いらっしゃるのを、宮はまことに辛いとお思いになるが、気づく人はいないらしい。本当に、どのように作り変えたら、これに劣らないお方が世にお生まれになろうか。月と日の光が空に通い合うように、と世の人も思っていた。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第7冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。