第7帖 紅葉賀 / 第14場面
翌日の帯の応酬
あらすじ・人物・読み方
置き忘れた指貫と帯が典侍から届き、歌の応酬が続きます。殿上で顔を合わせた源氏と頭中将は、真面目な顔を取り繕いながら「鳥籠の山」と口止めし合い、以後もこの一件を脅しの種にされます。
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君〔源氏〕は「まことに残念にも見つけられてしまったことだ」と思って臥せっていらっしゃった。典侍は情けないことと思ったが、落ち残っていた御指貫や帯などを、翌朝お届け申し上げた。恨んでも言っても甲斐がありません。次々に押し寄せては引き返していった波の名残には。とある。「臆面もない様子だ」と御覧になるのも憎らしいが、困りきっていた様子もやはり〔気の毒で〕、荒々しく立ち騒いだ波には心を騒がせはしませんが、その波を寄せ付けた磯を、どうして恨まずにいられましょう。とだけあった。帯は中将のものであった。御自分の直衣より色が濃い、と御覧になると、端の袖もないのであった。「見苦しいことだ。進んで乱れる人は、なるほど馬鹿馬鹿しい目に遭うことも多いのだろう」と、ますます自重の御心を強くされる。
中将が宿直所から「これを、まず縫い付けさせてください」と言って包んで送ってきたのを、「どうやって持って行ったのか」と憎らしい。「この帯を取らなかったら大変だった」とお思いになる。同じ色の紙に包んで、仲が絶えればその科を私が負うのではないかと危ぶんで、この縹色の帯は取ってもいませんよ。と言ってお送りになる。折り返し、あなたにこうして引き取られてしまった帯なのですから、このまま仲が絶えてしまったと言い訳することにしましょうよ。日が高くなって、それぞれ殿上の間に参内なさった。とても静かに素知らぬ顔をしていらっしゃると、頭の君もとても可笑しかったが、公事を多く奏上・宣下する日で、実に端正に真面目くさっているのを見るのも、お互いについ微笑んでしまう。人のいない間に近寄って「秘密事は懲りたでしょう」と言って、ひどく憎らしそうな横目である。〔源氏は〕「どうしてそんな事が。そのまま帰ったあなたこそお気の毒に。本当に、嫌なものですね、男女の仲とは」と言い交わして、「鳥籠の山にある〔名取川〕」と、互いに口止めし合う。
さてその後は、ともすれば何かの折ごとに話の種にされるのを、ますますあの厄介な女のせいだ、と思い知らされたであろう。女は相変わらずひどく色っぽく恨み言を寄こすが、〔源氏は〕興醒めだと思って逃げ回っていらっしゃる。中将は妹の君〔葵の上〕にも言い出さず、ただ「然るべき折の脅しの種にしよう」と思っていた。高貴なお生まれの親王たちでさえ、主上の御待遇の並々でなさを憚ってひどく遠慮申し上げていらっしゃるのに、この中将は「決して圧倒され申すまい」と、些細な事につけても対抗心をお燃やし申し上げなさる。この君一人が姫君〔葵の上〕と同腹なのであった。帝の御子というだけのことで、自分も同じ大臣の子と申し上げ、御寵愛の格別な方が皇女腹に大切に育てられた身は、どれほど劣る身分ともお思いにならないのであろう。人柄も理想の限りに整って、何事も望ましく満ち足りていらっしゃった。このお二人の張り合いこそ変わっていた。けれども煩わしいので〔以下は略す〕。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第7冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。