ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第7帖 紅葉賀 / 第4場面

葵の上の隔てと紫の君

あらすじ・人物・読み方

退出した藤壺を窺う源氏に、葵の上は紫の君の噂を聞いて心を閉ざします。一方、二条院の紫の君は無心に源氏にまつわり、母のない子を抱えたような源氏の心を慰めます。

下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。

表示と音声の設定

任意の復習へ

現代語で読む

〔藤壺の〕宮はその頃〔宮中を〕退出なさったので、〔源氏は〕いつものように隙がないかと窺い歩くことに夢中で、大殿〔葵の上〕のもとでは落ち着かない。その上、あの若草を探し当てて引き取ったことを、「二条院には人をお迎えだそうです」と人が申し上げたので、〔葵の上は〕ひどく気に食わないと思っていた。

〔源氏は思う〕「内々の事情を御存じなく、そうお思いになるのはもっともですが、素直に、普通の人のように恨み言をおっしゃれば、私も隔てなく語り合ってお慰め申し上げようものを、心外なこととばかり受け取られるのが憎らしくて、起こさなくてよい浮気沙汰まで出てくるのです。あの方の御様子には、どこが不満と思われる欠点もありません。誰よりも先に妻として迎えたので、愛しく大切に思う心を、まだ御存じないだけでしょうが、ついにはお思い直しになるでしょう」と、「穏やかで軽々しくない御性質も、いずれは」と、頼みに思える点では格別なのであった。

幼い人〔紫の君〕は、馴れてゆくにつれ、とても良い性質と容貌で、何の心もなく懐いて付きまといなさる。〔源氏は〕「しばらくは邸の者にも誰とは知らせるまい」とお思いになり、離れた対の屋に、またとないほど立派に部屋を整えて、御自身も明け暮れ出入りして、あらゆる稽古事を教え、手本を書いて習わせなどしながら、まるで他所で育った娘を迎えたようにお思いになっていた。

政所や家司をはじめ、特別に係を分けて、心配のないようにお仕えさせなさる。惟光以外の人は、はっきりしないとばかり思い申し上げていた。あの父宮〔兵部卿宮〕も御存じではなかった。

姫君は、やはり時々に思い出しては、尼君を恋しがられる折が多い。君〔源氏〕がいらっしゃる間は気が紛れているが、夜などは、時々お泊まりになるだけで、あちこちにお暇がなく夕方にはお出になるのを、慕われる折などがあるのを、〔源氏は〕とても可愛らしくお思いになる。

二、三日宮中に伺候し、大殿にもいらっしゃる折は、〔姫君が〕ひどく塞ぎ込むなどなさるので、気の毒で、母のない子を持ったような心地がして、外出も心が落ち着かない。僧都は事の次第をお聞きになって、不思議なことながら嬉しいこととお思いだった。あの〔尼君の〕御法事などの際にも、〔源氏は〕丁重にお悔やみ申し上げていた。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第7冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。