第7帖 紅葉賀 / 第7場面
大殿の正月
あらすじ・人物・読み方
左大臣邸を訪れた源氏は、葵の上に今年こそ打ち解けてほしいと語りますが、隔ては埋まりません。舅の左大臣は帯を手ずから持って源氏の装束を整え、生きがいというほどに世話を焼きます。
下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。
表示と音声の設定
現代語で読む
内裏から大殿〔左大臣邸〕にお出になると、いつものように端正に装った御様子で、優しい素振りもなく窮屈なので、〔源氏は〕「せめて今年からでも少し夫婦らしく改めてくださるお気持ちが見えれば、どんなに嬉しいでしょう」などと申し上げなさるが、
〔葵の上は〕「わざわざ人を据えて可愛がっていらっしゃる」とお聞きになってからは、「大切な夫人とお決めになった事なのでしょう」と、隔ての心ばかりが生じて、ますます疎ましく気恥ずかしくお思いになるのであろう。努めて知らない風を装っても、〔源氏の〕冗談めいた御様子には強情を通しきれず、お答えなどを少し申し上げなさるところは、やはり他の女性とは格別である。
〔葵の上は〕四歳ほど年上でいらっしゃるので姉女房らしく、気後れするようで、女盛りに整ってお見えになる。〔源氏は〕「この人のどこに不満な点がおありだろう。自分のあまりに良くない浮気心のために、こうしてお恨まれ申し上げるのだ」と思い知らされる。同じ大臣と申し上げる中でも評判がこの上ないお方が、宮腹の一人娘として大切に育てられた気位の高さは並々でなく、「少しでも疎かにするのは失礼だ」とお思い申し上げるのを、男君は「どうしてそこまで」と、いつものことになっている、二人の心の隔てなのであろう。
大臣〔左大臣〕も、こう頼りない〔源氏の〕お気持ちを辛いとお思い申し上げながらも、お目にかかれば恨みも忘れて、大切にお世話申し上げなさる。翌朝、お帰りになるところにお出になって、お着替えの際には名高い御帯を手ずから持たせてお越しになり、御衣の後ろを引き結び直すなど、御沓まで取りかねないほどになさるのが、まことに心のこもった様子である。〔源氏が〕「これは、内宴などということもあるそうなので、そのような折にこそ」などと申し上げなさると、〔左大臣は〕「その折にはもっと良い物がございます。これはただ目新しいだけのものです」と言って、無理に〔帯を〕お締め申し上げなさる。本当に、万事にお世話して拝見なさると生きがいがあり、「たまにでも、こういう方をお出入りさせてお世話するのに、これに勝ることはあるまい」とお見えになる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第7冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。