ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第9帖 葵 / 第12場面

鳥辺野の葬送

あらすじ・人物・読み方

葵の上の亡骸は鳥辺野に送られます。帰りの車の中で、源氏は煙の歌を詠み、薄墨の喪服に涙します。大宮は悲しみに沈み込むばかりです。

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人の申すのに従って、厳かなことどもを、生き返りなさるかと、さまざまに残すことなく、また損なわれなさることどもがあるのを見るにつけても、尽きせず思い惑うけれど、甲斐なくて日ごろになるので、どうしようもないと、鳥辺野にお連れ申し上げるほどの、悲しいことが、多かった。あちこちのお見送りの人々、寺々の念仏僧など、広い野に場所もない。院は言うまでもなく、皇后の宮、東宮などのお使い、そのほかの所々の者も参り違いして、飽きず悲しいお見舞いを申し上げなさる。大臣は立ち上がることもおできにならず、「このような年齢の末に、若く盛りの子に先立たれて、口ごもるようなこと」と恥じてお泣きになるのを、多くの人が悲しく拝見する。

夜通し激しく騒いだ儀式だったけれど、とてもはかないお亡骸ばかりをお名残に、夜明け深くお帰りになる。常のことではあるけれど、人一人が、これほど多くを見送らないことであるためか、類なく思い焦がれていらっしゃる。八月二十余日の有明の月なので、空も景色も哀れが少なくないところに、大臣が闇に暮れ惑っていらっしゃる様子をご覧になるのも、もっともに悲しいので、空ばかりが眺められなさって、

昇っていった煙はそれと分からないけれど、すべての雲居が哀れであるなあ。殿にお着きになって、露ほどもお休みになれない。長年のご様子を思い出しながら、「どうして、最期には自然と見直していただけるだろうと、のんびりと思って、なおざりの慰みにつけても、つらいとお思いだったのだろう。世を経て、疎ましく恥ずかしいものに思って、過ぎ果ててしまわれた」など、悔しいことが多く、思い続けられるけれど、甲斐がない。

限度があるので薄墨の衣は浅いけれど、涙が袖を淵としてしまったことよ。と言って、念誦なさっている様子は、ますます優雅さが増して、経を静かに誦みなさりながら、「法界三昧普賢大士」とおっしゃるのは、修行に慣れた法師より立派である。若君を拝見なさるにも、「何に忍ぶの」と、ますます涙がこぼれるけれど、「このような形見さえなかったならば」と、お思い慰める。

宮〔大宮〕は沈み入って、そのままに起き上がりなさらず、危うげに見えるのを、また思い騒いで、ご祈祷などをおさせになる。はかなく過ぎていくので、ご法事の急ぎなどをおさせになるのも、思いがけなかったことなので、尽きせず悲しい。並に不完全な子でさえ、人の親はどう思うだろう、まして〔葵の上は〕もっともである。また、類のない方でさえ、物足りなくお思いだったのに、袖の上の玉が砕けたのよりも、あきれるほどである。大将の君〔源氏〕は、二条院にさえ、ちょっとお渡りにもならず、しみじみ心深く思い嘆いて、修行を真面目にしながら、明かし暮らしていらっしゃる。あちこちへは、お文ばかりを差し上げなさる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第9冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。