ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第10帖 賢木 / 第1場面

伊勢下向の決意

あらすじ・人物・読み方

斎宮の伊勢下向が近づき、六条御息所は源氏への未練を断って娘に付き添い下る決意を固めます。源氏は手紙だけを交わし、対面は叶いません。

下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。

表示と音声の設定

任意の復習へ

現代語で読む

斎宮の伊勢ご下向が近づくにつれて、御息所は、何となく心細く思っていらっしゃる。重々しく煙たい正妻と思っていらっしゃった大殿の君〔葵の上〕もお亡くなりになった後、いくら何でもと世間の人も噂し申し、宮中でも期待していたのに、その後すっかりお通いが途絶え、あきれるほどのお仕向けを御覧になると、本当にお嫌になることがあったのだろうと、すっかりお分かりになってしまったので、一切の未練をお捨てになって、一途に出立なさる。

母親が付き添って下る先例も、特にはないのだが、とても見放しがたいご様子であるのにかこつけて、「憂き世を離れて行こう」とお思いになるので、大将の君〔源氏〕は、そうは言っても、これが最後と遠く離れておしまいになるのも残念に思われて、お手紙だけは、情のこもった様子で、たびたび交わす。お会いになることは、今さらありえないことと、女君〔御息所〕も思っていらっしゃる。「あの人は薄情だと、根に持っていらっしゃることもあろうから、私は、今以上に思い乱れることが増えるにちがいないので、無益なこと」と、固く決心していらっしゃるのであろう。

もとの邸〔六条の邸〕には、ほんの少しお帰りになる折々もあるが、たいそう内々にしていらっしゃるので、大将殿は、お知りになることができない。気軽にお心のままに参ることのできるお住まいでもないので、気がかりなまま月日も隔たってしまったところに、院の上〔桐壺院〕が、たいそう重いご病気ではないが、普段と違って時々お苦しみになるので、ますますお心の暇がないけれど、「薄情な者と思い込まれてしまうのもおいたわしいし、人が聞いて冷淡な男だと思われはしまいか」と決心なさって、野の宮に参上なさる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第10冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。