第10帖 賢木 / 第18場面
朱雀帝との対面
あらすじ・人物・読み方
源氏は朱雀帝に参上し、昔今の物語を交わします。帝は東宮への心寄せを語り、源氏も野の宮の曙のことを打ち明けます。
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現代語で読む
大方のことども、宮〔東宮〕の御事に触れたことなどを、頼りにする様子で、真っ直ぐなお返事ばかりを申し上げていらっしゃるのを、「まことに心賢く、尽きせぬこと」と、恨めしくお思いになるけれども、何事もご後見を申し上げ馴れていらっしゃったので、「人が不思議がって、見咎めもしよう」とお思いになって、お退出なさるべき日に、参上なさった。
まず、内裏の方に参上なさると、のどかでいらっしゃる折で、昔今の御物語を申し上げなさる。ご容貌も、院にとてもよくお似せになっていて、今少し艶めかしい気が添って、懐かしく和やかでいらっしゃる。お互いにしみじみと拝見なさる。
尚侍の君の御ことも、なお絶えない様子にお聞き及びあそばし、様子をお目にかける折もあるけれど、「何ということはない。今に始まったことならばこそであろう。あれほど心を交わすのに、ふさわしくないはずのない人の間柄であるよ」とお思い直しになって、お咎めあそばされなかった。
万事の御物語や、文の道で気がかりにお思いになることどもなどを、お尋ねあそばし、また、風流な歌語りなども、お互いに申し交わしあそばされるついでに、あの斎宮のお下りなさった日のこと、ご容貌が趣深くていらっしゃったことなどを、お語らせになるのに、ご自身も打ち解けて、野の宮のしみじみとしていた曙のことも、みな申し出ていらっしゃったのであった。
二十日の月が、だんだん差し出て、趣のあるころになると、「管弦の遊びなども、したいころですな」とおっしゃる。「中宮が、今宵、お退出になるそうで、ご見舞いに参るつもりでございます。院がおっしゃっておかれたことがございましたので。また、ご後見をお仕えする人もいらっしゃらないようでして。東宮のご縁が、おいたわしく思われまして」と奏上なさる。「東宮を、今の皇子とおなさってなどと、〔院が〕おっしゃっておかれたので、取り分けて志はするけれど、特に差し分けた様子にも、何事かをというまでもない。年の割には、ご筆跡などの技が賢くていらっしゃるはずだ。何事にも、はかばかしくない私自身の顔向けになるのだ」と、おっしゃるので、「大方、なさる技などは、たいそう賢く大人びた様子でいらっしゃるけれど、まだ、たいそう片端に」などと、そのご様子も奏上なさって、お退出になる折に、大宮の御兄の藤大納言の子の、頭の弁というのが、世に時めき、華やかな若者で、思い事のない様子である、妹の麗景殿の方に行くのに、大将の御前駆を忍びやかに追うので、しばらく立ち止まって、「白虹が日を貫いた。東宮は畏れなさった」
と、たいそうゆったりと口ずさんでいるのを、大将は、たいそう眩しいこととお聞きになるけれど、咎めるべきことだろうか。后のご様子は、たいそう恐ろしく、煩わしそうにばかり聞こえるのを、このように親しい人々も、気色ばんで言うはずの事どももあるのに、煩わしくお思いだったけれども、素知らぬ顔ばかりをしていらっしゃった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第10冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。