第10帖 賢木 / 第19場面
藤壺への挨拶
あらすじ・人物・読み方
退出の挨拶に参った源氏は、月に寄せた歌を命婦に託して藤壺へ伝えます。藤壺の返歌に、源氏はつらさを忘れて涙を落とします。
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現代語で読む
「御前に伺候して、今まで、夜を更かしてしまいました」と、申し上げなさる。
月が華やかなので、「昔、このような折は、管弦のお遊びをあそばし今めかしくおもてなしになった」などと、お思い出すにつけて、同じ御垣の内でありながら、変わってしまったことが多く悲しい。九重の宮中を霧が隔てているのでしょうか。雲の上の月をはるかに思いやることです。と、命婦を介して、申し伝えなさる。ほどもないので、ご様子も、ほのかであるけれど、懐かしく聞こえるので、つらさも忘れられて、まず涙が落ちる。月の光は、見た世の秋と変わらないのに、隔てる霧の、何とつらいことでしょうか。霞も人のとか、昔もあったことであろうか」などと申し上げなさる。
宮〔藤壺〕は、東宮を飽かず思い申し上げて、万事を申し上げさせなさるけれど、深くもお思い入れなさらないのを、たいそう気がかりに思い申し上げなさる。普段は、たいそう早くお休みになるのに、「お出になるまでは起きていよう」とお思いになるのであろう。恨めしそうにお思いだけれど、そうはいっても、お慕い申し上げなさることができないのを、まことにしみじみと、拝見なさる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第10冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。