第10帖 賢木 / 第22場面
出家の夜
あらすじ・人物・読み方
人々が退出した後、源氏は藤壺の御前に参ります。月の夜に歌を交わしますが、決意の固い藤壺に、源氏は思いを明かせないまま退出します。
下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。
表示と音声の設定
現代語で読む
故院の御子たちは、昔の御様子をお思い出すにつけて、ますます、しみじみと悲しくお思いになって、みな、お見舞い申し上げなさる。大将は、立ち止まっていらっしゃって、申し出なさるべき方途もなく、日暮れにまごついてお思いになるけれど、「どうして、それほど」と、人が拝見するはずなので、親王などが出てなさった後に、御前に参上なさっていた。
だんだん人が静まって、女房どもは、鼻をかみながら、所々に群れて座っていた。月は隈なく、雪の光に照り合う庭の様子も、昔のことが思いやられるにつけて、たいそう堪えがたくお思いになるけれど、たいそうよくお思い静めて、「どのようにお思い立ちになって、このように突然には」と申し上げなさる。「今初めて、思うことでもないのですが、何かと騒がしいようでしたので、心が乱れてしまいそうで」などと、例によって、命婦を介してお申し上げになる。
御簾のうちの気配、数多く集まって伺候する人々の衣の音が、静かに振る舞いながら、身動きしながら、悲しげで慰めがたい様子に漏れ聞こえる様子を、道理なことと、ひどいこととお聞きになる。風が、激しく吹き吹雪いて、御簾のうちの匂いが、たいそう奥深い黒方に染みて、名香の煙もほのかである。大将の御匂いまで薫り合って、見事に、極楽が思いやられる夜の様子である。
東宮の御使いも参っていた。おっしゃった様子を、お思い出し申し上げあそばされるにつけて、お心強さも堪えがたくて、お返事も申し上げさせになることがおできにならないので、大将が、言葉を加えて申し上げていた。誰も彼も、いる限りの者が心の収まらないころなので、お思いのことどもも、打ち明けなさることができない。月の澄む雲居をかけて慕っても、この世の闇に、なお迷うことでしょうか。と思われますことが、甲斐ないことです。お思い立ちになった恨めしさは、限りなく」とだけ申し上げて、人々が近くに伺候しているので、あれこれ乱れる心のうちをさえ、申し現しなさることができず、鬱々としていた。大方の憂きことにつけては厭いもしますが、いつかこの世を、背き果てることができるでしょうか。その上、濁りながら」などというのは、一方は御使いの心計らいであろう。しみじみとした思いばかりが尽きないので、胸が苦しくてお退出になってしまった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第10冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。