第10帖 賢木 / 第27場面
村雨の夜の露見
あらすじ・人物・読み方
里に下がっていた尚侍の君のもとへ源氏は夜な夜な通います。ある村雨の暁、右大臣が室に入り、源氏の帯と畳紙を見つけて、添い臥す源氏の姿を目にします。
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現代語で読む
そのころ、尚侍の君がお下がりになっていた。瘧病に長く苦しんでいらっしゃって、まじないなども心安くしようということであった。修法などを始めて、お治りになったので、誰も彼も、嬉しくお思いになるのに、例によって、珍しい隙であるといって、便りを交わしなさって、無理な様子で、夜ごとにお会いになる。
たいそう盛りで、華やかな様子をしていらっしゃる方が、少し思い悩んで、痩せ痩せにおなりになっているころは、たいそう趣がある。
后の宮も同じ所にいらっしゃるころなので、気配はたいそう恐ろしいけれども、このようなことがとりわけ増すご性分なので、たいそう忍んで、度重なってゆくと、様子を見る人々もあるようだけれども、煩わしくて、宮には、その旨を申し上げない。
大臣は、まったく思いがけなかった折に、雨が突然大げさに降って、雷がひどく鳴り騒ぐ暁に、お邸の君達や宮司などが立ち騒いで、あちこちに人目が多く、女房どもも恐れて惑って、近くに集まり参るので、まことにどうしようもなく、お出になる方途なく、明け果ててしまった。御帳の周りにも、人々が頻繁に並んで座っているので、たいそう胸が潰れそうにお思われる。心を知る人二人ばかりが、心を惑わす。
雷鳴りが止み、雨が少し止んできたころに、大臣がお渡りになって、まず、宮の御方にいらっしゃったのを、村雨の紛れでお知りにならずに、軽々しくふと這い入りなさって、御簾をお引き上げになるままに、「どうだい。ひどく情けない夜の様子に、思いやり申し上げながら、参って来てしまった。中将や、宮の亮などは、伺候していたか」などと、おっしゃる気配が、口早で軽々しいのを、大将は、物の紛れにも、左の大臣のご様子と、ふと思い比べなさって、言いようもなく、微笑まれなさる。なるほど、入り果てておっしゃっていただきたいものであるよ。
尚侍の君は、たいそうわびしくお思いになって、そっといざり出でなさるのに、お顔がひどく赤らんでいるのを、「なお苦しくお思いでいらっしゃるのか」と御覧になって、「どうして、ご様子が普段と違うのか。物の怪などが煩わしいのを、修法を延べさせればよかったのに」とおっしゃるのに、薄二藍の帯が、御衣に纏わりついて引き出されたのを見つけなさって、不思議だとお思いになるところに、また、畳紙に手習いなどをしたものが、御几帳のもとに落ちていた。「これはどうした物どもか」と、お心がお驚きになって、「あれは、誰のものだ。様子の違う物の姿だな。くれ。それを取って誰のものかと見てみよう」とおっしゃるので、振り返って、ご自身も見つけていらっしゃった。紛らわせる方途もないので、どうお答え申し上げられよう。ぼんやりしていらっしゃるのを、「子ながらも恥ずかしいとお思いだろう」と、それほどのお方は、お思い憚るべきであるよ。しかし、たいそう急いで、落ち着いた所のなさらない大臣が、思いも巡らさなくおなりになって、畳紙をお取りになるままに、几帳からお見入れになると、たいそうひどくなよなよとして、慎ましくなく添い臥している男もいた。今になって、そっと顔を引き隠して、あれこれ紛らわす。あきれるほど、目覚ましいほど心苦しいけれど、面と向かっては、どうしてお現しなさることができよう。目も暗む心地がするので、この畳紙をお取りになって、寝殿にお渡りになってしまった。
尚侍の君は、我を失った心地がして、死んでしまいそうにお思いになる。大将殿も、「おいたわしく、とうとう無用な振る舞いの積もりで、世間の非難を負おうとすることだ」とお思いになるけれど、女君の心苦しいご様子を、あれこれお慰め申し上げなさる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第10冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。