ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第10帖 賢木 / 第28場面

右大臣の訴えと大后の言葉

あらすじ・人物・読み方

右大臣は大后に源氏の非行を訴えますが、大后は兄弟の不和を嘆きながらも大臣を制します。それでも大后の胸には、源氏追放への思いが募ります。

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現代語で読む

大臣は、思いのままに、しまい込んだ所のなさらないご本性に、ますます老いの御ひがみまでお添えになるので、これは何事かと滞っていらっしゃようか。だんだんと、宮〔大后〕にもお訴え申し上げなさる。「こうこうのことがございます。この畳紙は、右大将の御筆跡です。昔も、心が緩んで付き合い始めたことであったけれども、人柄によって万事の罪をお宥しして、それでも見ようと、申しておりました折は、心も留めず、目覚ましいほど冷たくあしらわれましたので、心安からず思っておりましたが、そうあるべきことかと、世間に穢れたとしても、お見捨てになるまいことを頼みに、このように本望のとおり差し上げながら、なお、その御遠慮があって、肩を並べた女御などを言わせなさらないのさえ、飽き足らず残念に思っておりますところに、また、このようなことまでございましたので、まったくまことに心憂く思い詰めてしまいました。男の常例とはいえ、大将もまことにけしからぬお心でございました。斎院にもなお申し上げ犯しながら、忍んで御文を通わしたりして、様子のあることなどを、人が語っておりましたのも、世のためばかりでなく、私のためにも良くないことなので、まさかそのような思いやりのない仕業は、なさるまいと、当世の有職の方と天下を靡かせていらっしゃるご様子が、格別なので、大将のお心を、疑っておりませんでした」

などとおっしゃるのに、宮は、厳しいお心なので、たいそう面白くないご様子で、「帝と申し上げても、昔から皆の者が思い落とし申し上げて、致仕の大臣も、またとなく大切にする一人娘を、兄の坊〔朱雀帝〕でお仕えするには差し上げず、弟の源氏に、幼い者の元服の添い臥しに取り分けて、また、この君も宮仕えにと志してございましたのに、笑止な有様でございましたのを、誰も彼も不思議だとはお思いにならなかったでしょう。皆、あのお方〔源氏〕にこそお心をお寄せになっているようでしたのを、その本意と違う様子で、こうしても伺候していらっしゃるようだけれども、おいたわしさに、どうにかそのような方にでも、人に劣らない様子におもてなし申し上げよう、あれほど妬ましそうだった人の見る所もあり、などとは思っておりましたが、忍んでご自分の心の入る方に、靡いていらっしゃることでございましょう。斎院の御ことは、ましてそうでもありましょう。何事につけても、朝廷の御方に後ろ安からず見えるのは、東宮の御世に、心寄せの格別な人なので、道理であるらしいのです」と、すらすらとおっしゃり続けるのに、そうはいってもおいたわしく、「どうして、申し上げたことか」と、お思いになるので、

「そうはいっても、しばらくは、このことをお漏らしになりますな。内裏にも奏上させなさいますな。このように、罪がございましても、お見捨てになるまいことを頼みに、甘えておりますのでございましょう。内々にお制しおっしゃるのに、お聞き入れなさらないようでしたら、その罪に、ただご自身がお当たりになるでしょう」などと、言い直しなさるけれど、特にご様子もお直りにならない。

「このように、一緒にいらっしゃって隙もないのに、包むところもなく、そのように入っていらっしゃるのは、わざと軽んじ弄ばれているのだ」とお思い直しになるにつけて、ますますひどく目覚ましく、「このついでに、ふさわしい事どもを仕組んで出すのに、良い機会である」と、お思い巡らすようである。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第10冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。