ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第10帖 賢木 / 第4場面

暁の別れ

あらすじ・人物・読み方

夜通し語り明かした二人は、明けゆく空に別れの歌を交わします。露に濡れた道を帰る源氏を、御息所は名残惜しく見送ります。

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現代語で読む

月も入ってしまったのだろうか、しみじみとした空を眺めながら、恨み言を申し上げなさると、長年積もり集まっていたつらさも消えてしまうことだろう。ようやく、「今度こそ最後」と、思い離れていらっしゃったのに、「やはり思ったとおりだった」と、かえって心が動いて、思い乱れていらっしゃる。

殿上人の若い公達などが連れ立って、何かと佇んで心惹かれたというこの庭のたたずまいも、なるほど優艶という点では、どこにも負けない様子である。思いの限りを尽くしたお二人の間柄で、語り交わしなさった事どもは、とても筆に写しようがない。

だんだんと明けてゆく空の風情は、ことさらに作り出したかのようである。暁の別れはいつも涙に濡れるものですが、今朝の別れは世に知らないほど涙に曇る秋の空ですね。帰りがたく、お手を取りためらっていらっしゃるのは、たいそう優しい。

風が、とても冷たく吹いて、松虫が鳴きしぼんだ声も、折を知っているかのような顔つきなのを、それほど物思いのない者でさえ聞き過ごしがたいのに、まして、どうしようもないほど思い惑っていらっしゃるお二人には、かえって、歌も思うにまかせないのであろうか。ただでさえ秋の別れというものは悲しいのに、さらに鳴いて悲しみを添えないでおくれ、野辺の松虫よ。

悔やまれることが多いが、どうしようもないので、明けて行く空も体裁が悪くて、お帰りになる。道のほどはまことに露っぽい。

女君も、気強くはいられず、名残惜しく物思いに沈んで眺めていらっしゃる。ほのかに拝見なさった月の光に照らされたお姿や、なお残っている匂いなどを、若い女房たちは身に染みて、心違いをしかねないほどにお褒め申し上げる。

「どれほど余儀ない旅立ちだからといって、あのようなお方をお見捨てして、お別れ申し上げることができましょうか」と、わけもなく涙ぐみ合っていた。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第10冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。