第10帖 賢木 / 第3場面
榊の贈答
あらすじ・人物・読み方
夕月夜に照らされた源氏は、折り取った榊を御簾に差し入れます。帖名の由来となる榊の歌を交わし、久しぶりの対面に源氏の思いは乱れます。
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現代語で読む
明るく照り出した夕月夜に、立ち居振る舞いなさるご様子は、美しさに似るものがなく見事である。幾月ものご無沙汰を、それらしく言い訳申し上げるのも、面映ゆいほどになってしまったので、榊を少し折って持っていらっしゃったのを、御簾の下から差し入れて、「変わらぬ色を目印としてこそ、神の斎垣をも越えて参ったのです。何と薄情な」と申し上げなさると、ここは神垣のほとり、目印の杉もないのに、どうお間違えになって折った榊なのでしょう。とお答え申し上げなさると、少女子がいらっしゃる辺りだと思うと、榊葉の香が慕わしく、尋ね求めてこそ折ったのです。
周囲の気配は憚られるけれども、御簾だけを引き被るようにして、長押にもたれかかってお座りになっていらっしゃった。
思いのままにお目にかかることができ、先方も慕うようなお気持ちでいらっしゃった年月の間は、のんびりといい気になっていて、それほどまでのご執心ではなかった。また、心のうちに、「どうしたものか、欠点があって」と、お思い申してから後は、やはり情愛もさめていって、このように仲も隔たってしまったのを、久しぶりのご対面が昔を思い出させるので、「あはれ」と、思い乱れることは限りない。過ぎた日々、将来のことと、思い続けられて、心弱くお泣きになってしまった。
女君は、そうとは見せまいとお気持ちを抑えていらっしゃるようだが、とても堪えきれないご様子を、ますますお気の毒に思われて、やはり思いとどまるようにと、お勧め申し上げになるようである。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第10冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。