ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第10帖 賢木 / 第5場面

下向の日の決定

あらすじ・人物・読み方

後朝の文に心が揺れながらも、下向の決意は変わりません。源氏は旅の装束や調度を贈りますが、御息所はただ身の不名誉を嘆きます。

下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。

表示と音声の設定

任意の復習へ

現代語で読む

後朝のお手紙が、いつもより情愛濃やかなのは、お気持ちが傾きそうなほどであるが、また改めて、お思い直しなさるべき事でもないので、まことにどうしようもない。

男君は、それほどお思いでないことでも、恋路のためには上手に言い続けなさるようなので、まして、並々の相手とはお思い申し上げてこなかったお間柄で、その方がこうしてお別れなさろうとするのを、残念にもおいたわしくも、お思い悩みでいらっしゃるのであろう。

旅のご装束をはじめとして、女房たちの分まで、何かとご調度類などを、立派で目新しい様子に仕立てて、お餞別を申し上げになさるが、女君はそれを何ともお思いにならない。軽々しく心憂い評判ばかりを流して、あきれるほどのわが身の有様を、今さらのように、下向が近づくにつれて、起きていても臥していてもお嘆きになる。

斎宮は、幼いお心に、決まらなかったご出立が、このように定まってゆくのを、嬉しい、とばかりお思いでいた。世間の人々は、先例のないことだと、非難も同情も、いろいろとお噂申し上げるようだ。何事につけても、人から非難されないような身分の者は気楽なものである。かえって世に抜きん出た方のお身辺は、窮屈なことが多いのである。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第10冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。