第10帖 賢木 / 第6場面
桂川の御祓と斎宮の歌
あらすじ・人物・読み方
九月十六日、桂川で御祓が行なわれます。源氏の文に斎宮から大人びた返歌があり、源氏はほほ笑みながらも複雑な思いを抱きます。
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十六日、桂川で御祓をなさる。常の儀式より立派で、長奉送使などをはじめ、その他の上達部も、身分が高く評判のよい方々をお選ばせになっていた。院のお心寄せもあってのことであろう。お出ましになる折に、大将殿から例によって尽きせぬ思いのたけが申し上げられていた。「口に出すも恐れ多い御前で」と、木綿に結びつけて、「『鳴る神でさえ、思い合う仲を裂くことはない』といいますものを、八洲をお守りになる国つ神も、お心があるならば、飽きることのない別れの仲のわけを、お裁きください。考えてみますに、満ち足りない気持ちがいたしますよ」とある。たいそう取り込み中の折だが、お返事がある。斎宮のお返事は、女別当に書かせていらっしゃった。国つ神がお二人の仲をお裁きになる仲であるならば、あなたの実意のないお言葉を、まず糺されることでしょう。
大将は、ご様子が見たくて、宮中にも参内したくお思いになるが、振り捨てられて見送るようなのも人聞きの悪い感じがなさるので、思いとどまって、所在なく物思いに沈んでいらっしゃった。
斎宮のお返事がいかにも大人びているのを、ほほ笑んで御覧になっていた。「お年の割には、情趣もお分かりでいらっしゃるな」と、ただごとではなくお心が動く。このように普通と違った面倒なことには、必ず心をかけるご性分で、「いくらでも拝見できたはずの幼いお姿を、見ないで過ごしてしまったのは残念なことだった。世の中は定めないものだから、お目にかかるようなこともきっとあろう」などとお思いになる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第10冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。