第10帖 賢木 / 第8場面
桐壺院の御病
あらすじ・人物・読み方
神無月に入り、桐壺院のご病気が重くなります。行幸した朱雀帝に、院は東宮の後見と源氏のことを繰り返し言い残します。
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現代語で読む
院のご病気は、神無月になると、たいそう重くていらっしゃる。世の中でお惜しみ申し上げない人はいない。内裏でも、お嘆きになってご行幸がある。弱ったご容体でも、東宮のご事を、繰り返しお申し付けになって、次には大将のごこと、「私がいた世と変わらず、大小のことを隔てず、何事もこの者の後見と思いなさい。年齢の割には、政務を執るにも、ほとんど憚ることはなかろうと、私は見ている。必ず世の中を保つべき相のある人である。それゆえに、面倒なことに、親王にもなさらず、ただ人として、朝廷のご後見をさせようと、私は思っていたのだ。その心を違うようなことはなさいますな」と、しみじみとしたご遺言が多かったけれども、女が書き写すべき事ではないので、この一端を記すだけでも恐れ多い。
帝も、たいそう悲しいとお思いになって、決して背き申し上げるまいとの旨を、繰り返しお申し上げなさる。ご容貌も、たいそう美しく成人なさっていらっしゃるのを、嬉しく頼もしく拝見なさる。暇の都合があるので、急いでお帰りになるのにも、心残りなことが多くあるのである。
東宮も、ご一緒にと思い召したけれど、何かと慌ただしいので、日を変えて、お渡りになっていた。お年の割には、大人びて美しいご様子で、恋しいと思い申し上げていらっしゃった積もりに、何の気もなく嬉しいとお思いになり、拝見なさるご様子は、まことにしみじみとしている。
中宮〔藤壺〕は、涙に沈んでいらっしゃるのを、拝見なさるにつけても、あれこれとお心が乱れて思い召される。万事をお話し申し上げになるけれど、たいそう頼りないご様子なので、気がかりで悲しいと拝見なさる。
大将にも、朝廷にお仕え申し上げるべきお心構え、この宮〔東宮〕のご後見をなさるべきことを、繰り返しおっしゃる。
夜が更けてからお帰りになる。残る人なくお仕え申し上げて騒ぎ立てる様子は、行幸に劣る区別もない。名残の尽きないほどでお帰りになるのを、たいそう心残りに思い召される。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第10冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。