ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第13帖 明石 / 第10場面

忍び逢い

あらすじ・人物・読み方

十三日の月夜、入道のしつらいで源氏は岡辺の宿を訪れる。姫君は姿を見せず、箏の音と歌の応酬だけで夜が更けてゆく。

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現代語で読む

「どうにか紛らわして、こちらへ参らせよ」とおっしゃって、お渡りになることはあってはならないとお思いになったのを、当の姫君はまた、まったく思い立つはずもない。

「たいそう口惜しい身分の田舎人は、仮に下った人の打ち解けた言葉につけて、そのように軽々しく語らう業もするだろうが、人並みにも思われないだろうものだから、私はひどい物思いを添えるだろう。このように分不相応な心を思っている親たちも、世に籠もって過ごす年月こそ、無益な頼みに、行く末を心にくく思うだろう、かえっての心を尽くすだろう」と思って、「ただこの浦においでになる間、このような御文ばかりを申し交わすのが並々ではない。年ごろ噂にのみ聞いて、いつかはそのような人の御様子をほのかにも拝見しようなど、思いかけなかった御住まいで、まともではないがほのかにも拝見し、世にないものと聞き伝えた御琴の音をも風に添えて聞き、明け暮れの御様子が気がかりでなく、このようにまで世にあって尋ねなさるなどこそ、このような海人の中に朽ちる身に余ることだ」などと思うにつけ、ますます恥ずかしくて、露ほども近づくことは思い寄らない。

親たちは、長年の祈りが叶うべきことを思いながら、

「思いがけなくお見せ申し上げて、お心に留めなさらない時、どんな嘆きをするだろう」と思いやるに、忌まわしくて、

「立派な人と聞こえても、辛くひどいこともあるだろうか。目にも見えない仏や神を頼み申し上げて、人の御心をも宿世をも知らないで」などと、繰り返し思い乱れた。君は、

「この頃の波の音に、あの楽の音を聞きたいものだ。そうでなければ、甲斐がないことだ」などと、常々おっしゃる。

忍んで吉い日を見て、母君のあれこれ思い煩うのを聞き入れず、弟子などにさえ知らせず、心一つに立ち居て、輝くばかりに調えて、十三日の月が華やかに差し出たのに、ただ「惜しい夜の」と聞こえた。

君は、「好色な様子だな」とお思いになるが、御直衣を差し上げて引き繕って、夜更けに出かけなさる。御車は二つとない作りだけれど、所が狭いので、御馬でお出かけになる。惟光などだけをお供させなさる。やや遠く入る所であった。道すがらも、四方の浦々を見渡しなさって、思う同士で見たい入江の月影にも、まず恋しい人の御ことを思い出し申し上げなさるにつけ、そのまま馬で通り過ぎて、赴いてしまいそうにお思いになる。秋の夜の月毛の駒よ、私の恋い慕う人のいる雲居を翔けて、しばしの間でも見よう。と、独り言をなさる。

造った様子は、木深く、高い所が勝って、見どころのある住まいである。海の面は厳しく面白く、こちらは心細く住んだ様子で、「ここにいて、思い残すことはないだろう」と思いやられるにつけ、物哀れである。三昧堂が近くて、鐘の声が松風に響き合って物悲しく、岩に生えた松の根の様子も心遣いのある様子である。前栽どもに虫の声がし尽くしている。あちこちのありさまなどを御覧になる。娘を住ませている方は心格別に磨かれて、月を入れた真木の戸口が様子ばかり押し開けてある。

少し休んで、何かとおっしゃるにも、「ここまではお目にかかりまい」と深く思うので物嘆かしくて、打ち解けない心の様子を、「この上なくも人並みであるな。それほどでもない身分の人でさえ、これほど言い寄れば心強くもなく慣れていたのに、たいそうこのように窶れているのに、侮られているのだろうか」と妬ましく、さまざまにお悩みになった。「情けなく押し立て申すのも、ことの様子に違っている。心比べに負けるのは人聞きが悪い」などと乱れてお怨みになる様子は、げに物思いを知る人にこそ見せたいほどである。

近くの几帳の紐に、箏の琴が弾き鳴らされているのも、様子がくつろいでいて、打ち解けながら掻き探っている様子が見えて面白いので、

「この、聞き馴れた琴をさえも」とか、万事におっしゃる。睦言を語り合う人がいてほしい。憂き世の夢も半ば覚めるかと。明けない夜に、そのまま惑っている心には、どれを夢と分けて語りましょう。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第13冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。