ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第13帖 明石 / 第14場面

明石の別れ

あらすじ・人物・読み方

暁の出発。明石の君と別れの歌を交わし、入道からは狩衣の贈り物と見送りの歌を受ける。都を出た春に劣らぬ秋の別れである。

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現代語で読む

お立ちになる暁は、夜深くお出でになって、御迎えの人々も騒がしいので、心も空ではあるが、人の間を憚って、置き捨てて立つのも悲しい。浦波の名残はどうだろうと思いやることだ。御返しに、年を経た苫屋も荒れて、憂き波の返る方に身を添えようか。と、思いけるままであるのを見なさるにつけ、堪えなさるけれど、ほろほろとこぼれた。事情を知らない人々は、

「このような御住まいでも、年ごろというほど馴れなさったのを、今はと思われるのは、もっともなことだ」と見申し上げる。

良清などは、「並々でなくお思いになるようだ」と、憎く思う。

嬉しいのにも、「げに、今日を限りに、この渚を別れること」などと哀れがって、口々に涙ながら言い合うことどもがあるようだ。しかし、何だということはない。

入道は、今日の御用意をたいそう厳かにし申し上げた。人々は下の品まで旅の装束が珍しい様子である。いつの間に整え得たのかと見えた。御装いは言うまでもない。御衣櫃を数多く掛けお仕えさせる。本当の都の土産にすべき御贈り物どもは由緒づいて、思い寄らない隅もない。今日献上すべき狩の御装束に、寄る波に立ち重ねた旅衣が、潮どけしていると人は厭うだろうか。とあるのを御覧じつけて、騒がしいけれど、互いに換えるべきであった、逢うことの日数を隔てる中の衣を。と言って、「心ざしのあるのを」と言って献上し換える。御身に馴れたものどもを遣わす。げに、今一重偲ばれなさるべきことを添える形見であるようだ。得も言われぬ御衣に匂いの移ったのを、どうして人の心にも染めないだろうか。入道は、

「今はと世を離れておりました身ですが、今日の御送りに仕え申し上げないこと」など申して、櫂を漕ぐのも気の毒ながら、若い人は笑うに違いない。世を海に、ここら潮に染む身となって、なおこの岸を離れられない。心の闇は、ますます惑うに違いなくございますので、境までだけでも」と聞こえて、

「好き好きしい様子ですが、お思い出しなさる折がございましたら」など、御様子を賜わる。ひどく物を哀れとお思いになって、所々赤らみなさった御目元のあたりなどが、言いようなくお見えになる。

「思い捨てがたい筋もあるようだから、今たいそう早く見直しなさるだろう。ただこの住処こそ見捨てがたい。どうすべきか」と言って、都を出た春の嘆きに劣るだろうか、年経る浦を別れた秋は。と言って、押し拭いなさるにつけ、ますます物も覚えず、涙が増す。立ち居もあさましくよろめく。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第13冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。