第14帖 澪標 / 第11場面
東の院と変わる宮中
あらすじ・人物・読み方
源氏は五節の君をなお忘れかね、東の院の造営を進める。朱雀院は入道后の宮の崩御を機に御出家を遂げ、兵部卿宮と弘徽殿の勢いなど、宮中のありさまも移り変わる。
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現代語で読む
このような折にも、〔源氏は〕五節〔の君〕をお忘れにならず、「また逢いたいものだ」と心にかけなさるけれど、たいそう難しいことで、〔思いを〕紛らわすこともおできにならない。
女〔五節の君〕は物思いが絶えないのを、親はいろいろと思って言うこともあるけれど、世に生きてゆくことを思い絶えている。
気楽な殿造りをして〔東の院を造る〕ならば、「このような人を集めても、思うようにお世話申し上げるべき人も出ていらっしゃれば、その人の後見にもなろう」とお思いになる。
あの院の造り様は、かえって見どころが多く、今風である。趣のある受領などを選んで、それぞれに〔造営を〕お命じになる。
尚侍の君〔朧月夜〕を、〔源氏は〕なお思い放ち申し上げることができない。懲りもせず立ち返り、御心遣いもあるけれど、女は憂い目に懲りていらっしゃって、昔のようにも応対し申し上げなさらない。かえって、窮屈で騒々しい世の中だと、〔源氏は〕お思いになる。
院〔朱雀院〕はのどかにお思いになって、折々に趣のある御遊びなどを好ましげでいらっしゃる。女御や更衣は皆例のようにお仕えなさるけれど、春宮の御母女御だけは、取り立てて時めきなさることもなく、尚侍の君の御寵愛に押し消されていらっしゃったのを、このように引き変わって、めでたい御幸いにて、〔院のもとを〕離れ出て春宮にお添い申し上げていらっしゃる。
この大臣〔源氏〕の御宿直所は、昔の淑景舎である。梨壺に春宮がいらっしゃるので、近隣の御心寄せとして、何事もお伝えし合って、春宮をも後見し申し上げなさる。
入道后の宮は、御位をまたお改めになるべきではないので、太上天皇に准じて、御封をお与えになる。院司どもがついて、様子も格別に立派である。御行いや功徳のことを、常の御営みとしていらっしゃる。長年、世間を憚って出入りも難しく、お目にかかれない嘆きを心塞いでお思いだったところに、思いのままに参上し退出なさるのもたいそうめでたいので、大后〔弘徽殿〕は、「憂いものは世であったよ」とお思いになって嘆く。
大臣〔源氏〕は事に触れて、たいそう恐縮した様子でお仕えし、心をお寄せ申し上げなさるのも、かえって気の毒な様子なのを、人々も穏やかでなく、申し上げるのだった。
兵部卿親王が、長年の御心遣いを辛くお思いにならず、ただ世間の聞こえだけをお憚りになったことを、大臣は憂いことに思っておられて、昔のようにも親しくし申し上げなさらない。
世間一般には、あまねく立派な御心であるけれど、この方〔兵部卿宮〕のあたりでは、かえって情けのない節もお交えになるのを、入道の宮〔朱雀院〕は、気の毒で本意ないことに御覧になっていらっしゃった。
世の中のことは、ただ半分ずつ分けて、太政大臣とこの大臣〔源氏〕の御意のままである。
権中納言の御娘が、その年の八月に〔春宮へ〕参上なさる。祖父殿がお世話して、儀式などたいそう理想的である。
兵部卿宮の中の君も、そのように志して大切に育てられなさる評判なのを、大臣は、人より優れなさるようにとは特にお思いでないのであった。どのようにしようとなさるのだろうか。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第14冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。