ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第14帖 澪標 / 第15場面

斎宮の帰京と御息所の死

あらすじ・人物・読み方

新しい斎宮が決まり、御息所は斎宮とともに帰京する。病の床に就いた御息所を源氏は見舞うが、祭の直後に御息所は入道の姿のまま亡くなる。

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そういえば、あの斎宮も〔新しい方と〕交替なさったので、御息所が都へ上りなさった後、〔源氏は〕変わらない様子で何ごともお見舞い申し上げなさることは、恐れ多いほど情けを尽くしなさるけれど、「昔でさえ冷淡だった〔源氏の〕お気持ちが、今さら名残惜しくなる様子は見まい」と、〔御息所が〕思い放っていらっしゃるので、〔源氏が〕お渡りになるなどすることは特になかった。

〔源氏が〕無理にお心を動かし申し上げなさっても、〔御息所は〕ご自分の心ながら分かりにくく、あれこれ関わり合うようなお出歩きなども窮屈にお思いになるようになっていたので、〔源氏は〕無理強いする様子でもいらっしゃらなかった。

斎宮のことを、「どのようにご成長になっただろう」と、〔源氏は〕見たく思い申し上げなさる。

なお、あの六条の旧邸をたいそうよく修理し繕ってあったので、〔御息所は〕優雅に住んでいらっしゃった。風流を好みなさることが衰えがたく、よい女房などが多く、風流を好む人の集まる所で、物寂しい様子ではあるけれど、心慰む様子で日々を過ごしなさるうちに、急に重く病みなさって、何もかもたいそう心細く思われなさったので、罪深い所のほとりで年月を過ごしたこともひどくお思いになって、尼になりなさった。

大臣〔源氏〕はお聞きになって、仰々しい仲ではないけれど、それでもその方面の者にもお話し合わせになり、人に思い申し上げていた方がこのようにお思いになるようになったのが残念にお思われて、驚きながら〔六条へ〕お渡りになった。飽きることなく、しみじみとしたお見舞いを申し上げなさる。

〔源氏は〕近い御枕元にお席を用意して、脇息に寄りかかって、お返事などを申し上げなさるのも、〔御息所が〕ひどく弱りなさっている気配なので、「絶えない心ざしのほどは、お見せ申し上げることもできないのか」と、残念で、ひどくお泣きになる。

〔源氏が〕これほどまで思いとどまっていらっしゃったのを、女〔御息所〕も万事にしみじみとお思いになって、斎宮の御ことを〔源氏に〕申し上げなさる。

「〔斎宮が〕心細く残りなさるのを、必ず、折に触れて〔宮中の人々の〕数に入れて申し上げてください。また〔斎宮を〕託す人もなく、比類ないご境遇なのです。甲斐ない身ながらも、もうしばらく世の中を穏やかに思う間は、あれこれ物事をお分かりになるまで、〔斎宮を〕拝見しようと思っておりましたのに」

〔御息所は〕そう言っても、消え入りそうに泣きなさる。

「このような御頼みがなくてさえ、思い放ち申し上げるべき仲でもないのに、まして、心の及ぶ限りは、何ごとも後見し申し上げようと思っております。決して、気がかりにお思い申し上げなさいますな」

などと〔源氏が〕申し上げなさると、

「たいそう難しいこと。まことに頼りにすべき親などとして託す人でさえ、女親と別れてしまうのは、たいそう哀れなことであるでしょう。まして、〔源氏が斎宮を〕思う人らしく扱いなさるにつけても、つまらない方面が混じって、人に心を置かれなさるでしょう。困った思いやりごとですが、決してそのような世間並みの筋でお思い寄りなさいますな。憂き身をつまんでおりますにつけても、女は、思いの外に物思いを添えるものでございますから、どうかその方面を離れて、〔斎宮を〕拝見しようとお思いくださいますように」

などと〔御息所が〕申し上げなさると、〔源氏は〕「つまらなくおっしゃるなあ」とお思いになるけれど、

「長年にわたり万事をお思い知りになっていた方を、昔の好色心の名残があるような顔でおっしゃるようにするのも本意ではありません。よろしい、自然と〔そうなりましょう〕」

と言って、外は暗くなり、内は大殿油〔灯火〕がほのかに物越しに通って見えるのを、「もしかしたら」とお思いになって、そっと御几帳のほころびから御覧になると、心もとないほどの火影に、御髪がたいそう趣深く華やかに削いで、寄り座っていらっしゃるのが、絵に描いたような様子で、ひどくしみじみとしている。帳の東面に添って臥していらっしゃるのが、宮〔斎宮〕であろうよ。御几帳が無造作に引き退けられている所から、お目を留めて見通しなさると、頬杖をついて、たいそう物悲しく思っている様子である。かすかではあるけれど、たいそう愛らしくいらっしゃるだろうと見える。

御髪のかかり具合、頭の形、気配が、上品で気高いながらも、愛敬に満ちていらっしゃる気配が、はっきりと見えなさるので、心もとなく見たいお気持ちでも、「あれほどおっしゃるものを」と、思い返しなさる。

「たいそう苦しさが増しております。恐れ多いことですから、早くお帰りくださいませ」

と言って、〔御息所は〕人に抱き臥せられなさる。

「近く参って来た甲斐に、よろしく思われなさったら嬉しいはずなのに、心苦しいことです。どのように思われているのですか」

と言って、〔源氏が〕覗きなさる様子なので、

「たいそう恐ろしい様子でございますよ。乱れる心地がこのように極まっている折にちょうどお渡りくださったのは、まことに浅からぬ〔ご縁です〕。思っておりますことを、少しでも申し上げさせましたので、それでもと、頼もしく〔思います〕」

と〔御息所は〕申し上げさせなさる。

「このような御遺言の列に〔私を〕思ってくださったのも、ますますしみじみとします。故院の御子たちが大勢いらっしゃいますが、親しく睦みお思いになる方は、ほとんどいない中で、主上〔朱雀帝〕が同じ〔桐壺院の〕御子たちのうちに〔私を〕数え申し上げなさったので、さぞお頼み申し上げていらっしゃったでしょう。少し大人びたほどになった年齢ながら、世話をする人もいないので、物足りないことを」

などと申し上げて、〔源氏は〕お帰りになった。お見舞いは、今少し勝って、しばしば申し上げなさる。

七、八日ほどあって〔御息所は〕亡くなりなさった。あっけなくお思われるところに、世もたいそうはかなく、物心細く思われなさって、〔源氏は〕内裏へも参りなさらず、あれこれの御事などを取り決めさせなさる。また頼もしい人も他にいらっしゃらなかった。古い斎宮の宮司など、仕え慣れた者たちが、わずかに諸事を定めるのだった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第14冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。