ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第14帖 澪標 / 第2場面

尚侍の君の嘆き

あらすじ・人物・読み方

尚侍の君は帝の御譲位の近づく宮仕えの行く末と、一門の衰えに不安を訴える。源氏は慰めの言葉をかけながらも、定まらぬ仲の行末を思う。

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現代語で読む

〔帝が〕お下りになるだろうというご配慮が近くなったことにも、尚侍の君は、心細げに世の中をお思い嘆いていらしたが、〔源氏は〕たいそう哀れにお思いになるのだった。

「大臣はお亡くなりになり、大宮も頼りなげにばかりご病気が重くいらっしゃるのに、私の寿命も残り少ない心地がしますので、たいそう痛ましく、名残もない様子で〔この世に〕留まろうとなさるのでしょう。昔から、人には思いを落としておいででしたが、ご自身のお志のまたとない習いとして、ただあなたのことだけが、哀れに思われました。人より優れた方を、また御本意があってご覧になるとしても、並々でないお志だけは、比べものにはならないだろうと思うことさえ、心苦しいのです」

と言って、お泣きになる。

女君は、お顔がたいそう赤く匂って、こぼれるばかりの御愛嬌で、涙もこぼれてしまったのを、〔源氏は〕すべての罪を忘れて、哀れに愛らしいとご覧になる。

「どうして、御子さえお持ちになるはずがないのか。残念なことでもあるなあ。縁の深い人のためには、今になって見出されなさるだろうと思うのも、残念なことだ。限りがあるので、ただの人としてご覧になるのだろう」

などと、行く末のことまでおっしゃるのに、〔尚侍は〕たいそう恥ずかしくも悲しくもお思いになる。御容貌などは、優美で清らかで、限りない御心ざしが年月につれて増すようにおもてなしなさるので、素晴らしい人ではあるけれど、それほどお思いでなかった様子やお心のありようなどが、物思いを知らされるにつれて、「どうして、自分の心の若く幼いのに任せて、あのような騒ぎまで引き出して、自分の名は言うまでもなく、あの方のためにさえ〔迷惑をかけたのか〕」などとお思い出しになるにつけ、たいそう憂い御身である。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第14冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。