ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第17帖 絵合 / 第8場面

絵合の日

あらすじ・人物・読み方

定めの日、左右の絵が装束も華やかに運び出され、帥宮が判者を務める。勝負は夜まで決まらず、最後に出た左の「須磨」の巻に一同は涙し、左の勝ちが決まる。

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現代語で読む

その日と定めて、急なことのようではあるが、趣のある様子に取りなして、左右の絵どもを参らせなさる。女房の控え所にお席を設えて、北南とお方々に分かれて伺候する。殿上人は、後涼殿の簀子に、それぞれ心を寄せながら伺候する。

左は、紫檀の箱に蘇芳の花足、敷物には紫地の唐の錦、打敷は葡萄染の唐の綺である。童が六人、赤色に桜襲の汗衫、衵は紅に藤襲の織物である。姿や、用意など、並々でなく見える。

右は、沈の箱に浅香の下机、打敷は青地の高麗の錦、結び紐の組み方、花足の心づかいなど、今風である。童は、青色に柳の汗衫、山吹襲の衵を着ている。

皆、御前に担ぎ立てる。主上の女房は、前後と、装束を着分けている。

お召しがあって、内大臣、権中納言が、参上なさる。その日、帥宮も参上なさっていた。たいそう風情があっておいでになるうえに、絵をお好みになるので、大臣が、内々にお勧め申し上げなさった様子であろうか、仰々しいお召しではなく、殿上にいらっしゃるところを、お言葉があって御前に参上なさる。

この判をお仕え申し上げなさる。たいそう、なるほど描き尽くした絵どもがある。まったく決めかねていらっしゃる。

例年の四季の絵も、昔の名手どもの面白い題材を選びながら、筆が滞らず描き流した様子は、例えようもないと見るところ、紙絵は限りがあって、山水の豊かな心づかいを見せ尽くせないものなので、ただ筆の飾りが、人の心に作り立てられて、今の浅はかなものでも、昔の跡に恥じることなく、にぎやかで、ああ面白いと見える点はまさって、多くの争いどもは、今日はお方々に興のあることも多かった。

朝餉の間の御障子を開けて、中宮もいらっしゃるので、深くご存じでいらっしゃるだろうと思うと、大臣もたいそう優雅にお見えになって、あちこちの判が頼りない折々に、ときどき差し応えなさったほどが、見事である。

決めかねて夜に入った。左はまだ数が一つ残っている最後に、「須磨」の巻が出て来たところ、中納言のお心は、騒いだ。あちらでも心して、最後の巻は心づかいが格別に優れたものを選んでおいたところ、このようなすばらしいものの名手が、心の限りを澄まして静かに描いたものは、例えようもない。

親王〔帥宮〕をはじめ申し上げて、涙をお留めになることがおできにならない。その世に、「心苦しく悲しい」とお思いになった時よりも、いらっしゃったであろう様子や、お心にお思いだったことどもが、まるで今のことのように見え、土地の様子や、はっきりしない浦々、磯を隠すことなく描き表わしていらっしゃる。

草書で仮名を所々に書き混ぜて、本格的な詳しい日記ではなく、あわれな歌なども混じっているのが、類いなく趣がある。誰も余事をお思いにならず、さまざまの絵の興は、これに皆移り尽くして、あわれで面白い。万事皆お譲りになって、左が、勝ちとなった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第17冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。