ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第17帖 絵合 / 第7場面

朱雀院の絵と歌の贈答

あらすじ・人物・読み方

源氏は勝負を御前で決めることを提案し、秘蔵の須磨・明石の二巻を取り混ぜる。朱雀院は斎宮下向の儀式を描かせた絵を梅壺へ贈り、前斎宮と歌を交わす。

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現代語で読む

大臣〔源氏〕が参上なさって、このようにそれぞれに争い騒ぐ心づかいどもを、趣があるとお思いになって、「どうせなら、御前で、この勝負を決めよう」とおっしゃった。このようなこともあろうかと、前々からお思いだったので、中でも格別なものは選んでお留めになっていたところ、あの「須磨」「明石」の二巻は、お思いになるところがあって、取り混ぜさせなさった。

中納言も、そのお心は劣らない。この頃の世では、ただこのように面白い紙絵を整えることを、世の中こぞって営んでいる。

「今あらためて描くことは、本意のないことだ。ただ、もとあった限りでこそ〔競うべきだ〕」

とおっしゃるけれど、中納言は人にも見せずに、もったいない窓を開けて、お描かせになっていたのを、院〔朱雀院〕も、このようなことをお聞きになって、梅壺〔女御〕に絵どもを差し上げなさった。

年の内の節会どもの面白く興があるものを、昔の名手どもがそれぞれに描いたものに、延喜帝がお手ずから事の心をお書きになったもの、またご自分の御世のことをお描かせになった巻に、あの斎宮が伊勢へ下られた日の大極殿の儀式が、お心に染みてお思いになったので、描くべき様子を詳しくお命じになって、公茂がお仕え申し上げたものが、たいそう見事なのを差し上げなさった。

艶やかに透いた沈の箱に、同じ心葉の様子など、たいそう今風である。ご消息はただ言葉で、院の殿上に伺候する左近中将をお使いとしてある。あの大極殿にお輿を寄せた所の、神々しさに、

身はこのように、注連の外の身となったが、あなたの心のうちは忘れてはいません。

とだけある。お返事申し上げないのも、たいそう畏れ多いので、苦しくお思いになりながら、昔のお簪の端を少し折って、

注連の内は昔とは違う心地がして、神代のことも今は恋しく思われます。

といって、縹色の唐の紙に包んで差し上げなさる。お使いへの禄など、たいそう優美である。

院の帝がご覧になると、限りなくあわれとお思いになって、在りし世を取り返したくお思いになった。大臣のことをも、つらいとお思い申し上げなさったのだったろう。過ぎ去った方へのお報いであったのだろうか。

院の絵は、后の宮から伝わって、あの女御〔弘徽殿〕のお方にも多く参るだろう。尚侍の君も、このようなご趣味は人に優れて、趣のある様子に取りなしては集めなさる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第17冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。