第18帖 松風 / 第11場面
姫君を思う
あらすじ・人物・読み方
源氏は若君を二条院に迎えたい思いを募らせるが、母君の心を思って言い出せない。帰京の日、戸口で若君を抱く乳母と、几帳の端に覗く明石の君の美しさに、思いは深まっていく。
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現代語で読む
と申し交わしたのも、似つかわしくないことこそ、身に余る有様のようである。この上なく年を重ねて立派になった容貌や気配は、お捨てになるまいと思われ、若君もまた、尽きることなく守られていらっしゃる。
「どうしようか。隠れた様子でお育ちになるのが、心苦しく口惜しいので、二条の院に移して、心のゆく限りもてなせば、後の評判も罪を免れるだろう」
とお思いになるけれど、また、〔母君が〕思うことが愛おしくて、言い出しなさらず、涙ぐんでご覧になる。幼い心地に、少し恥じらっていたが、次第に打ち解けて、物を言い笑いなどして、睦れていらっしゃるのを見るままに、匂いが勝って可愛らしい。抱いていらっしゃる様子は、見る甲斐があって、宿世がこの上ないと見えた。
翌日は京へお帰りになるはずなので、少しお寝坊なさって、やがてここからお出になるはずのところ、桂の院に人々が多く参り集まって、ここにも殿上人が数多く参っていた。御装束などをなさって、
「たいそうみっともないことだな。このように見現わされるべき隅でもないのに」
と言って、騒がしさに引かれてお出になる。心苦しいので、さりげなく紛らわして立ち止まっていらっしゃる戸口に、乳母が、若君を抱いて差し出していた。しみじみした御様子に、掻き撫でなさって、
「見なければ、たいそう苦しいことでしょう、たいそう唐突ですね。どうすべきでしょう。たいそう里が遠いことよ」
と
おっしゃると、
「遠く思い絶えていた年月よりも、今からの御もてなしが、おぼつかなくございましょうことは、心尽くしに〔なります〕」
などと申し上げる。若君が、手を差し出して、お立ちになっているのを慕いなさると、つい座りなさって、
「不思議と、物思いが絶えない身であることよ。しばらくの間でも苦しいことよ。さあ。どうして、一緒に出ては、お惜しみにならないのですか。そうであればこそ、人心地もするでしょう」
とおっしゃると、ほほ笑んで、女君に「このようなことです」と申し上げる。
かえって物思いに乱れて臥していたので、すぐには動けない。あまりにも上品ぶっていると思われた。人々もそばにいるのが辛いので、しぶしぶ座り出て、几帳の端に隠れた横顔が、たいそう優美で趣があり、たおやかな気配は、皇女たちと言っても足りないほどである。
帷子を引きやって、細やかに語らいなさるということで、しばらく振り返ってご覧になるのに、そのように静めていたが、見送り申し上げる。
言いようのない盛りの御容貌である。ひどく痩せていらしたが、少しふっくらするほどにおなりになった御姿など、「こうしてこそ立派であった」と、御指貫の裾まで、優美に愛敬のこぼれ出るのは、無理な見なしになるだろう。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第18冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。