源氏物語 第18帖
松風 まつかぜ
あらすじ
二条東院を造り上げた源氏は、明石の君を都に迎えようとするが、君は身のほどをわきまえてためらう。入道は大堰川のほとりの旧邸を取り戻して修理し、君は老いた父を明石に残して、姫君と母の尼君を伴い上洛する。源氏は嵯峨野の御堂詣でを口実に大堰を訪れ、三年ぶりに君と再会し、初めて見る姫君の愛らしさに心を動かされる。やがて桂の院での月見に冷泉帝の御製が届き、源氏は姫君を二条院に迎えて紫の上に育てさせようと思い定めていく。
この帖の人物
場面 第1–5場面
第1場面東の院と明石の君源氏は二条東院を造り上げ、花散里を西の対に移し、東の対を明石の君のために空けておく。都へ上るよう再三誘うが、君はわが身のほどを思ってためらい、両親もその思いをもっともだと嘆く。第2場面大堰の旧邸入道は、母君の祖父・中務宮の領地だった大堰川のほとりの荒れた旧邸を取り戻そうと、宿守の男を呼んで交渉する。源氏の威光を背に修理は急ぎ進められ、源氏も入道の心づくしに感じ入る。第3場面惟光の手配源氏は惟光を大堰に遣わして邸の用意を整えさせる。大堰の様子が海辺に通じて風情があると聞き、源氏も悪くないと思う。近くに源氏の造る嵯峨野の御堂もあった。第4場面明石の別れ出発を前に、入道と尼君は若君を抱いて名残を惜しみ、別れの歌を詠み交わす。入道は長々と身の上を語って聞かせ、姫君の一行は辰の刻、舟でひそかに明石を発つ。第5場面舟出明石に残る尼君と舟中の明石の君は歌を交わして別れを惜しむ。一行は順風に恵まれ、約束の日に違わず大堰へ入り着く。
場面 第6–10場面
第6場面大堰の暮らし大堰の邸は明石の海辺に似て、君は昔を思いながら暮らす。形見の琴を弾くと松風が響き合い、尼君と歌を交わす。その様子に源氏は心静まらず、手紙を送る。第7場面桂の院への疑い源氏から嵯峨野の御堂へ行くという文が届くが、急に造るという桂の院に別の人を据えるのではないかと、明石の君は気が進まず、もどかしく日を送る。第8場面源氏の来訪黄昏時、源氏は忍んで大堰に着き、初めて若君と対面して隔たった年月を悔いる。本意の所への移転を勧めるが君は応じず、二人は一夜を語り明かす。翌日、源氏は邸の修理を命じ、来し方を語り合う。第9場面尼君との対面源氏は渡殿の水を繕う明石の君の姿に目を留め、几帳のもとで尼君と対面する。昔語りの末に清水の歌を交わし、尼君は后の母にふさわしい風情を見せる。第10場面琴の贈答御堂の行事を定めた源氏は、夜、かの琴を取り出して掻き鳴らし、変わらぬ調べに歌を添える。明石の君は松の響きに音を添えたと返し、契りの深さが確かめられる。
場面 第11–15場面
第11場面姫君を思う源氏は若君を二条院に迎えたい思いを募らせるが、母君の心を思って言い出せない。帰京の日、戸口で若君を抱く乳母と、几帳の端に覗く明石の君の美しさに、思いは深まっていく。第12場面蔵人の帰参かつて解任された蔵人が靭負尉となって帰参し、明石での昔を源氏と語り合う。車の後ろには頭中将と兵衛督が乗り、一行は桂の院へ向かう。第13場面帝の御製桂の院の御遊びに、冷泉帝から「月のすむ」の御製が蔵人弁に託されて届く。源氏は大堰から饗応の品を取り寄せ、使いに装束を与え、「久方の」の返歌を託す。第14場面月見の遊び酔いの席で源氏は淡路の島の月を詠み、頭中将が返し、左大弁は亡き桐壺院を偲ぶ。尽きぬ遊びに斧の柄も朽ちそうな夜更け、一行は騒ぎの中を急ぎ帰っていく。第15場面二条院の夜二条院に帰った源氏は紫の上に山里の物語を聞かせ、自らは大堰へ文を書き送る。大堰からの返事を隠しきれない源氏の様子に、紫の上は目を背けながらも心を乱す。
場面 第16–16場面
出典・底本
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第18冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。