第18帖 松風 / 第12場面
蔵人の帰参
あらすじ・人物・読み方
かつて解任された蔵人が靭負尉となって帰参し、明石での昔を源氏と語り合う。車の後ろには頭中将と兵衛督が乗り、一行は桂の院へ向かう。
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あの、解任されていた蔵人も、帰ってきた。靭負尉で、今年冠を得たのである。昔とは改まって、心地よさそうに、御佩刀を取りに寄って来た。人影を見つけて、
「来し方の物忘れはしておりませんが、畏れ多いのでどうも。浦風を覚えておりました暁の寝覚めにも、驚かせ申し上げるべき手がかりさえなくて」
と、様子をうかがうのを、
「八重に立つ山は、さらに島隠れにも劣らなかったのを、松も昔のままと、辿られましたが、忘れない人もいらっしゃったとは、頼もしい」
などと言う。
「この上ないことです。私も思いがなかったわけではないのに」
などと、情けなく思われるけれど、
「今、改めて」
と、取り繕って、参った。
たいそう立派に歩いていらっしゃるほど、かしましく追い払って、御車の後ろに、頭中将と兵衛督をお乗せになる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第18冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。