第18帖 松風 / 第13場面
帝の御製
あらすじ・人物・読み方
桂の院の御遊びに、冷泉帝から「月のすむ」の御製が蔵人弁に託されて届く。源氏は大堰から饗応の品を取り寄せ、使いに装束を与え、「久方の」の返歌を託す。
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現代語で読む
「たいそう軽々しい隠れ家を、見現わされてしまったことが、妬ましい」
と、ひどくからかいなさる。
「昨夜の月に、口惜しくも御供に遅れておりましたと思われましたので、今朝、霧を分けて参っておりました。山の錦は、まだでございました。野辺の色こそ、盛りでございました。某の朝臣が、小鷹にかかずらって、立ち後れておりましたのは、どうなったのでしょう」
などと言う。
「今日は、やはり桂殿に」と言って、そちらの方へいらっしゃった。突然の御饗応と騒いで、鵜飼どもをお召しになると、海人の囀りが思い出される。
野に泊まった君達は、小鳥を印ばかり引き付けさせた荻の枝などを、包みにして参った。大御酒が幾度も順に流れて、川の辺りが危なげなので、酔いに紛れていらして暮らした。
各々絶句などを作り渡して、月が華やかに差し出る頃に、大御遊びが始まって、たいそう今めかしい。
弾き物、琵琶、和琴ばかり、笛どもは上手の限りを尽くして、折に合った調子を吹き立てるほど、川風が吹き合わせて面白いところに、月が高く差し上がり、万事の澄んだ夜がやや更ける頃に、殿上人が、四、五人ほど連れて参った。
上に仕えていたのを、御遊びのあったついでに、
「今日は、六日の御物忌の明ける日で、必ず参るはずなのに、どうして」
とお命じになったので、ここに、このようにお泊まりになった旨をお聞きになって、御消息があるのであった。御使いは、蔵人弁であった。
月の澄む川の向こうの里であるから、桂の影ものどかでしょう。
羨ましいことです
とある。畏まってお受け申し上げなさる。
上の御遊びよりも、やはり所柄の、凄さの添った物の音を愛でて、また酔いが加わった。ここには用意の物もございませんでしたので、大堰に、
「わざとらしくない用意の物はありますか」
と、言い遣わした。取りあえずの物に応じて参らせた。衣櫃二荷にしてあるのを、御使いの弁は早く帰り参るので、女の装束をお与えになる。
天の光に近いという名ばかりで、朝夕の霧も晴れない山里です。
行幸をお待ち申し上げる心構えであるらしい。「中に生えた」と、口ずさみなさるついでに、あの淡路島を思い出しなさって、躬恒が「所からか」と訝ったことなどをおっしゃり出すと、物哀れな酔い泣きどもがあるだろう。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第18冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。