ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第18帖 松風 / 第15場面

二条院の夜

あらすじ・人物・読み方

二条院に帰った源氏は紫の上に山里の物語を聞かせ、自らは大堰へ文を書き送る。大堰からの返事を隠しきれない源氏の様子に、紫の上は目を背けながらも心を乱す。

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現代語で読む

大騒ぎしてお帰りになる響きを、大堰では物を隔てて聞いて、名残寂しく眺めていらっしゃる。「御消息さえしないで」と、大臣〔源氏〕も御心に掛かっていらした。

殿〔二条院〕にいらして、しばらくお休みになる。山里の御物語などを〔紫の上に〕申し上げなさる。

「暇を申し上げたほどが過ぎたので、たいそう苦しいことです。この好き者どもが尋ねて来て、たいそうひどく強いて留めたのに、引かされて。今朝は、たいそう辛い」

と言って、お休みになった。例によって、心が解けず見えなさるけれど、見知らぬ様子で、

「比べようのないほどを、思い比べなさるのも、悪いことです。私は私と思いなしなさい」

と、お教え申し上げなさる。

暮れかかる頃に、内裏へ参りなさるのに、引き側めて急いでお書きになるのは、あちら〔大堰〕へであるらしい。横目にも細やかに見える。ささめいて遣わすのを、御達〔女房たち〕などが、憎み申し上げる。

その夜は、内裏にもお仕えなさるはずだけれど、解けなかった御様子の取りなしに、夜が更けたけれど、お出になった。あった御返事を持って参った。引き隠しなさらず、御覧になる。ことに憎まれるべき節も見えないので、

「これを、破って隠しなさい。厄介なことです。このような物が散るのも、今は相応しくないほどになりました」

と言って、御脇息に寄り座りなさって、御心の内では、たいそうしみじみと恋しく思いやられなさるので、燈火を眺めて、ことに物もおっしゃらない。文は広げられたままであるけれど、女君〔紫の上〕は、ご覧にならない様子であるのを、

「せめて、見隠しなさる御目尻こそ、煩わしい」

と言って、ほほ笑みなさった御愛敬が、所狭いほどにこぼれそうである。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第18冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。