第18帖 松風 / 第16場面
若君を二条院へ
あらすじ・人物・読み方
源氏は紫の上に、蛭の子の齢になった若君を二条院で育ててほしいと相談する。稚児を愛する紫の上はほほ笑んで心を動かされ、源氏は迎えを思い乱れて帖を閉じる。
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現代語で読む
差し寄りなさって、
「実は、可愛らしいものを見ましたので、契りが浅くも見えないのを、そうは言っても、物めかすほどにも憚りが多く、思い煩っておりました。同じ心に思い巡らして、御心にお決めください。どうすべきでしょう。ここでお育てになるでしょうか。蛭の子〔若君〕がその年頃にもなりましたのを、罪のない様子であるのも思い捨てがたく。幼げな下の方〔明石の君〕も、紛らわせようなどと思うのを、目覚ましいとお思いでなければ、引き結びなさいませ」
と申し上げなさる。
「思わずにばかり取りなしなさる御心の隔てを、せめて見知らず、心からでしょうかと言えばこそ。幼くない御心には、たいそうよく叶うはずです。どれほど可愛いことでしょう」
と言って、少しほほ笑みなさった。稚児をひどく可愛いものとしなさる御心なので、「得て、抱いてお世話したい」とお思いになる。
「どうしようか。迎えようか」と思い乱れる。お渡りになることはたいそう難しい。嵯峨野の御堂の念仏などを待ち出して、月に二度ばかりの御約束であるらしい。年の暮れには、立ち勝ってしまうだろうのを、及ばないことと思うけれども、やはりどうして物思わしくないことがあろうか〔いや物思わしい〕。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第18冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。