ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第18帖 松風 / 第8場面

源氏の来訪

あらすじ・人物・読み方

黄昏時、源氏は忍んで大堰に着き、初めて若君と対面して隔たった年月を悔いる。本意の所への移転を勧めるが君は応じず、二人は一夜を語り明かす。翌日、源氏は邸の修理を命じ、来し方を語り合う。

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現代語で読む

ひそやかに、御前ぶりの疎い者は交ぜず、御心遣いをしてお渡りになった。黄昏時にご到着になった。狩の御衣におやつれになっただけでも世に知らぬ〔美しい〕心地がしたのに、まして、そのような御心で引き繕っていらっしゃる御直衣姿は、世になく優美で眩い心地がするので、思いむせんでいた心の闇も晴れるようである。

珍しく、しみじみとして、若君をご覧になるのも、どうして浅くお思いになるだろうか〔いや深くお思いになる〕。今まで隔たっていた年月だけでも、情けなく悔しいほどにお思いになる。

「大殿腹の君〔夕霧〕を可愛らしいと、世の人がもてはやすのは、やはり時世によれば、人の見なしようであることよ。このようにこそ、優れた人の出自は知れ渡るものだ」

と、ほほ笑んだ顔の無心な様子が、愛敬があって、匂い立っているのを、たいそう可愛らしいとお思いになる。

乳母は、下った頃は衰えていた容貌も、年を重ねて立派になり、この数か月の御物語などを、馴れて申し上げるのを、しみじみと、あのような塩屋のそばで過ごしてきたことを、思いおっしゃる。

「ここも、たいそう里離れていて、お渡りになることも難しいので、やはり、あの本意のある所〔二条院〕へお移りください」

とおっしゃるけれど、

「たいそう不慣れな様子で過ごして」

と申し上げるのも、もっともなことである。一夜、万事について約束を語り合い、明かしなさる。

修理すべき所、所の預かり、今加えた家司などにお命じになる。桂の院にお渡りになるはずだということで、近くの御荘の人々が、参り集まっていた者も、皆尋ねて参った。前栽どもの折れ伏したのなどを、修理させなさる。

「あちこちの立石どもも皆転んで失くなっているのを、情けをかけて直せば、風情のある所でしょう。このような所をわざわざ修理するのも、つまらないことです。そうして過ごし果てないと、発つ時は物憂く、心に留まり、苦しかった」

などと、来し方のことをおっしゃり出して、泣いたり笑ったり、打ち解けておっしゃる様子は、たいそう見事である。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第18冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。