ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第18帖 松風 / 第9場面

尼君との対面

あらすじ・人物・読み方

源氏は渡殿の水を繕う明石の君の姿に目を留め、几帳のもとで尼君と対面する。昔語りの末に清水の歌を交わし、尼君は后の母にふさわしい風情を見せる。

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現代語で読む

尼君は、覗いて拝見すると、老いも忘れ、物思いも晴れる心地がしてほほ笑んだ。

東の渡殿の下から出る水の趣を、修理させなさると言って、たいそう優美な袿姿でくつろいでいらっしゃるのを、たいそう見事で嬉しいと拝見していると、閼伽の具などがあるのをご覧になって、思い出しなさって、

「尼君は、こちらですか。たいそうしどけない姿でしたね」

と言って、御直衣をお召し出しになって、差し上げる。几帳のもとにお寄りになって、

「罪軽くお育てになった、人のためには、御勤行のほどがしみじみと、思いなされ申し上げます。たいそうひどく思い澄ましていらした御住まいを捨てて、憂き世にお帰りになったお志は、浅くありません。またあちら〔明石〕では、どのように残られて、思い起こしなさるだろうと、さまざまに〔思います〕」

と、たいそう懐かしくおっしゃる。

「捨てておりました世に、今さら立ち帰って、思い乱れるのを、お察しくださいましたので、命の長さの証も、思い知られました」と、泣いて、「荒磯の陰に、心苦しく思い申し上げておりました二葉の松も、今は頼もしい御成長の先行きと、お祝い申し上げるのを、浅い根ざしのゆえでしょうか、どうだろうと、あれこれ心を尽くしております」

などと申し上げる様子が、つまらないので、昔物語に、親王のお住みになった様子などを、お語らせになると、修理された水の音の響きが、言いがかりめいて聞こえる。

住み慣れた人は帰って来てたどり着いても、清水は宿の主人顔になっています。

わざとらしくなくて、言い消す様子が、雅やかで良いと、お聞きになる。

小さな井戸は昔のことも忘れまいのに、元の主人は面変りしているのでしょう。ああ

と、眺めて、お立ちになる姿も、匂いも、世に知らないほどだとばかり思い申し上げる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第18冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。